12

「…………。」

……なんだか反論するのも馬鹿らしく感じてきた。

アルは最後の足掻きとばかりにアッシュに尋ねる。

「……そもそもこんな夜中に店なんてやってるのか?」

時刻はもう真夜中に近い。
アッシュはへへん、と得意そうに話す。

「表通りで、夜市が毎日開かれてるんだってさ!さっきチェックインするときにあの女将さんにこっそり教えてもらったんだー。あの女将さん美人だったなぁ」

宿屋の女将のことを思い出しているのか、アッシュはだらしなく口を開いて物思いにふけっている。しかし背中を押す力は緩めはしない。

なんでこの街の人間は、揃いも揃ってこう余計なことを話すんだろうか……。

頭の痛さにアルは額に手を当てる。

「……はぁ、わかった。
わかったからその背中を押すのを止めろ、蕁麻疹出るだろうが。」

「……アルって俺の事嫌いだろ。」

「好きだったら変態だろう。」

結局部屋に留まるのを諦め、アルはアッシュと共に夜市に行くことにした。
早く行って早く帰ったほうが良いとアルは思ったのである。


二人は、宿屋から出ると、夜市が開かれているという表通りへと向けてひと気がまばらな夜の暗い道を進んでいった。

そして数分後、ひときわ明るく騒がしい表通りが見えてきた。

「あれが夜市ってやつかー!」

アッシュは夜市の光と思わしきものを見て楽しみに思う気持ちが弾けたのか、歩くスピードを上げ始める。

「おい、あまり急ぐな」

先走るアッシュを追うと、表通りからの光が近くなり、徐々に視界が開けていった。

一足先に表通りに着いたアッシュは感動の声をあげながら爛々と目を輝かせている。

表通りには、ランプのオレンジの光が溢れており、人という人が集まっていた。
夜市というだけあって、出店も所狭しと並んでいる。

「俺さ、こういうお祭りみたいな雰囲気大好きなんだよね!
なんつーの?こう……血が騒ぐ、みたいな?」

「……俺は好きじゃない。」

「おいおい、せっかくのお祭りムードなんだからそんなこというなって!
ほら、周りを見て。
みんな楽しそうでいーじゃないか」

「……アホくせぇ。いいから行くぞ。
さっさと手袋買って帰るんだからな」

「りょーかい」

人混みの中を掻き分けて二人は表通りを進んでいった。
アッシュは興味津々にあっちこっちと並ぶ店たちを見ている。


表通りにはアクセサリー屋に雑貨屋から何に使うかもよく分からない謎の置物を取り扱っている店までも立ち並んでいた。

「あ、ここの店がいいかも」

アッシュは急に立ち止まるとその露店の前で良い物はないかと商品を物色し出した。

「この手袋なんか良くない?なんかロックな感じがする!」

アッシュは生地が薄く指先の部分が無いレザーグローブを指差す。

「あ、この指輪もなかなか……」

ぐぬぬ……と、気に入った指輪を買うかどうか迷うアッシュ。

「めんどくせぇ……
欲しけりゃ買えばいいだろ」

俺は早く帰りたいんだが。

「うーん、そだね。
おっちゃん、これとこれちょーだい!」

はい毎度、といいながら店の主人はアッシュから代金を受け取る。
アッシュは買ったものを使い古された革の鞄に入れると後ろにいるアルの方へ向き直った。

「買い物つきあってくれてありがとー。んじゃ、お望み通り帰りますー?」

「……ちょっと待て」

アルは、アクセサリー屋の隣にある雑貨屋で、革のブックカバーを買った。
今頃図書館で本を熟読しているであろうカイに、お土産として渡すつもりであった。

「悪い、待たせたな」

「…アルって俺に対してとカイに対しての態度が180度くらい違うよな。」

「お前とカイが180度くらい違うからだ。」

二人は来た道を戻り、宿屋を目指して歩き始めた。


表通りから暗い道に入ってしばらく歩いたろうか、向こうの方から軽い足跡がタッタッタ……と聞こえてきた。

不思議に思って目を凝らすと十五、六歳くらいの黒髪の少女がこちらへ向かって走ってきている。

「あわわっ!」

少女はアルにぶつかると、こちらを一瞥したが、特に礼を言うこともなく、長い髪を大きくなびかせながらそのまま表通りの方へ走っていった。


……なんだったんだ、あいつ。

アルが首を傾げる傍らで、アッシュは怪訝そうな顔をしていた。

「あれ……?
あの子、どっかで見た気が……」


「なんだ?
知り合いか?」

「うーん、あの髪に見覚えはあったんだが、わからない。
それよりも、声かけ損なった。
俺としたことが……」

落ち込むアッシュをよそにしてアルは宿屋へ向かって歩き出す。

「おい、おい。
無視はヒドくない?
その上、俺を置いてくなんて」


……本気でコイツを置いて行きたい。


「とっとと帰るぞ。
明日朝一でカイを迎えにいかないといけないからな。
また昼間みたいなことに巻き込まれると困る」

「あ、そうだ!
明日はアジトに向かうから、しっかり寝とけよ。
もう船は決めてあるから」

「チッ、また勝手に。
……そういや宿屋にあったベッド、二段ベッドだったな。
俺は下の段に寝るからな」

ため息をつきながらスタスタと歩くアルを追いかけるようにして二人は宿に戻った。




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