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「アル、図書館行っちゃ……駄目かな?」
アッシュの情報を耳にしたカイはアルの目をじっと見つめてきた。お願いだから肯定してくれと目が必死さを物語っている。
頼むから、そんな目で俺を見るな!
お前はチワワか!!
「あー、もう……
わかったよ、わかった!
今回はそこの馬鹿のせいでもあるから特例にしてやる。
明日の朝までだ。
明日の朝までに、図書館で見たい本を見とけよ」
数秒の短くて長い耐久戦に敗れた自分に対して、我ながら情けないとアルは思った。
「わあ!
ありがとう、アル!」
カイは満面の笑みを浮かべる。
アルには彼の周りに、花畑のオーラが浮かんでいるように見えた。
カイを図書館に送った後、特にすることもない二人は、アルとカイが今朝まで泊まって居た宿屋へと向かった。
朝にチェックアウトした客が戻ってきたことに対して、宿屋の女将は不思議そうな顔をしていたが、二人は特に詮索もされることもなく、そのまま三人部屋へとチェックインをしたのだった。
「ふわぁー、つっかれたぁー!」
アッシュは目の前のベットにダイブすると、ゴロゴロとその上で転がり始める。
「……おい、なんでお前が俺たちと一緒の部屋に泊まってんだよ」
ベットの上で年甲斐もなくはしゃいでいるアッシュをアルは冷たい目で見た。
「なんでって……。
俺、この街に来たばっかだから、良い宿屋とか全然知らなかったしー。
それに、チェックインするとき、アルだって特に突っ込まなかったじゃん?」
うつ伏せの状態でベットから顔を上げると、なにを今更……とでも言うように、アッシュは唇を尖らせる。
なんなんだこいつは……。
「宿知らなかったからって部屋を一緒にする必要は無いだろとかアルじゃなくてアルフレッドだとか色々突っ込みたいところはあるんだがとりあえずその顔やめろ、気色悪い。」
「うわ、今地味に傷付いたよ俺!!」
はぁ、と手を額にあててアルは溜息を吐いた。
「……なあ、
ずっと疑問に思ってたんだが」
アルは、アッシュの竜鱗のある右手の甲を凝視する。
「お前、その右手の鱗、隠さないのか?」
アッシュは自らの右手を一瞬見た。
「えぇ?
……なんで?」
「……お前は馬鹿か?
いや、疑う余地もねぇ。
お前は間違いなく馬鹿だ」
「なんだよ、さっきから人を馬鹿馬鹿ってー」
「悪いな、馬鹿には馬鹿って言わないと気が済まないんだ。」
「とにかく、軍兵士に鱗を見られたら一発でお前が竜人族であることを見破られて、即処刑台行きだぞ。
しかも只でさえ竜人族ってだけで危険なのに、お前はレジスタンスに入ってんだろ?
なら鱗くらい隠しとけよ」
「『僕は竜人族です、捕まえて下さい』って書いてあるシャツ着て街中を歩いてるようなもんだ。
……まぁお前がそんなに捕まりたいってんなら俺はもうなにも言わないけどな」
「…………あー、確かに!
鱗は隠した方がいいね!
アルあったまいー!!」
アッシュはベットから身体を起こすと、両手をぽむり、と叩く。
どうやらアルの言いたいことを彼は理解したようだった。
そして、アルに向かってアッシュは微笑む。
「……っていうか君、なんやかんや言っても、俺のこと心配してくれてるんだ?
なーんだ、根はいいやつじゃん!」
アルは不機嫌そうな顔をしてアッシュから目を反らすとそっけなく言い放った。
「……期待してるとこ悪いが、俺はお前を心配しているわけじゃない。
ただ、お前が兵に捕まった時に俺は巻き添えを喰らいたくないだけだ」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらアッシュは手をひらひらと振る。
「わかった、じゃあそういうことにしておくよ」
アッシュは突然ベッドから降りるとブーツを履き始めた。
「手袋、買いにいくんだけど。
付き合ってくんね?」
「…面倒だから行きたくないってのと、お前と一緒に歩きたくないってのと、腹が痛いっていう見え透いた嘘言うのとどれが良い?」
「どれも嫌だよ!
しかも何俺と歩きたくないって!?
いーじゃん、どーせ暇でしょ?」
ブーツを履き終わり、立ち上がるとアルの背中を押し始める。
「俺はお前とは違ってやらなきゃいけないことがたくさん――」
「そんなん、帰ってきたら俺が手伝ってやるって!
ほらほら、れっつごー!!」
アルの言葉を遮りながら、アッシュは更にぐいぐいと背中を押す。
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