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「ちなみに、さっきアッシュが仲間にするって言ってた祖竜っていうのは、王様が倒そうとした虹色に輝く竜のことだよ」

スラスラと淀みなく物語を紡いでゆくカイに、アッシュは「おおっ」と、感心するような顔をした。


「……なるほど、お前がそんなに驚いたのは、おとぎ話の中に出てくる竜を、しかも最終的に死んだ竜を仲間にすると、この馬鹿が大真面目に言ったからか」

「なっ、馬鹿っていうなよなー」

アルの言葉にミルクティーを飲むのを一時やめ、文句を言うアッシュ。

「まぁまぁ、二人とも抑えてよ。……で、アッシュ。
祖竜が実際に存在してるかっていう証拠は有るのかい?」

カイは半信半疑の様子であった。正直、アルもこの案に対しては「馬鹿らしい」という感想しか抱いていない。

「あれー?もしかして、祖竜の存在自体疑ってる?」

アルは聞かなくても分かるだろ、と思いながらアッシュから目を背けた。

「あはは、その様子だと、全く存在を信じていないようだね。
まぁ、確かに俺らレジスタンスは「祖竜が存在している証拠」は持って無い」

「じゃあ、なんでそんな馬鹿げた案を思い付いた?」

「なぜかって?
祖竜がいるっていう「証拠」は無いって俺はさっき言ったよ。
でも祖竜がいる「証言」は無いとは言ってないよね?」

「……おい、まさか」

「そう、そのまさかさ。
目撃情報が最近多数寄せられてるんだ。しかもここ数ヶ月で急に、ね」

「祖竜がここ数ヶ月の間に起こった何かしらの出来事をきっかけに復活したのかもしれない」


そういうと、アッシュは残ったミルクティーを飲み干し、ナデシコと呼ばれたブレスレットを腕に着けると椅子から立ち上がった。
ゆるく伸びをしながら彼は言う。

「さーて、いい時間になってきたし、長話はここまでだ。
君たちには明日の朝、船に乗って、グランバスタにある俺らのレジスタンスのアジトまで来てもらうよ。
レジスタンスに加わってもらうなら、まず顔合わせをしないとね」

グランバスタとはエストライゼ大陸の中央山間部にある地方都市である。

「……おい、俺たちの都合はどうなる?
あんた、結構勝手なヤツだな。
まぁ分かってたが」

そういいながらも、アルは冷めたコーヒーを喉に流し込むと、旅の荷物を背負い、硬いソファから立ち上がった。

「いいじゃないか、アル。
明日も明後日も、特にこれと言って何も用事はないし」

カイはやんわりとアルをなだめた後、ウェンディを肩に乗せマントを羽織った。

アルは溜息をつきながら、「そうじゃなくて」と、首を横に振る。

「お前、図書館に行きたかったんじゃなかったのかよ?」

「あっ……!
そういえば……」

カイはハッと目を白黒させる。

……この様子だと自分たちの目的を完璧に忘れていたようだ。

窓の外を見ると、もう陽はどっぷりと海の向こうへと落ちていた。

「僕の……至福の時間が……」

カイは今にも泣きそうな声で、しょんぼりとしている。

「日没までって約束だったから……しょうがないよね……」

「あー、アルがカイを悲しませてるぅー」

いじめっ子を見つけた子どものようにアッシュがアルを冷やかす。

アルじゃなくて、アルフレッドだとあれほど……と思いながらも、もう一々訂正するのも面倒くさくなって来たので、アルはスルーした。

「おい俺のせいか?
勝手に責任転嫁するんじゃない。
俺から言わせてもらえばお前のせいだし更に言えば面倒事に突っ込んだカイの自業自得だ。」

「冷たいなぁ、アルは。
あ、そうだ、カイ。
豆知識なんだけど、ここの公共図書館って、世界的にも珍しい二十四時間営業の図書館なんだぜ?知ってた?」

あいつ、余計なことをっ……!

カイに要らぬ情報を与えたアッシュに対して、後で殴ってやろうとアルは自らに誓うのであった。


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