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「それじゃあ、たくさんの力を無理して使おうとすると頭が痛くなるのはそのリミッターのせいなんだね?」
カイがそういうとアッシュはコクリ、と頷いた。
「そんで、こっからが問題なんだけど――」
「ドラゴンスレイヤーは、自らの契約竜を殺し、その血を取り込むことによってそのリミッターを外しているっていわれてるのさ。
つまり、ドラゴンスレイヤーが普通の竜人族より強いわけは、リミッターが外れていることによって竜の力を自由に使えるからってことな」
「リミッターが外れているドラゴンスレイヤーたちの力は余りにも強大だ。
正直、ただの人間が何万人いても敵う相手じゃない。
俺たち竜人族が三人居ても、政府を倒せるのかは実際には怪しいと思ってる」
アッシュはビシリと人差し指を立てる。
「そこで俺たちレジスタンスは、名案を考え出したのさ!」
「名案?」
……嫌な予感しかしないが。
「そう、名案!
ずばりその名案とは……」
「でけでけでけでけ……」
セルフドラムロールをして緊張感を煽ろうとするアッシュ。
それを馬鹿にした目で見るアルと、期待の眼差しで見守るカイ。
「ででん!祖竜を仲間にすることさ!!」
…………。
………………。
………………………。
痛々しい程の静寂がその場に居すわる。
「……はぁ!?」
少し遅れてカイは、ありえない、というような顔をして呆れた声を出した。
「ちょっ……
ちょっと待ってくれ。
全く話が掴めないんだが」
祖竜とはなんだ?
なんでそんなにカイは驚いている?
「あれれー?アル君は竜人族の成り立ちの話を知らないのぉ?意外だなぁー」
アルが慌てている様子を見たアッシュはさっきナンパを邪魔したお返しにと、ニヤニヤと馬鹿にするように笑っている。
対してアルはまたもアッシュを馬鹿にしているようにも、自嘲しているようにも見える笑みを浮かべていた。
「俺は中途半端で出来損ないらしいからな。
『正常』な竜人族の成り立ちなんざ興味ないね。」
「あー…成る程ね。」
少し気まずそうな顔をするアッシュ。
「まぁいいや、教えてあげるよ」
気を取り直したアッシュがカイの方にポン、と手を置く。
「彼がね!!」
その言葉を聞いて、カイはあたふたし始める。
「ええっ、なんで僕が……」
カイの肩から手をどけると、アッシュはミルクティーをすすりだした。
「いやー、なんかリミッターの説明で喋りまくったら疲れちゃってねー。
ほら、しかもさっきの様子だと、あの話のことを知ってるようだったしさ?」
「うう……しょうがないなぁ。
アル、僕から説明するね」
「『昔々ある国の国王は力に自信のある戦士たちを呼び付けて虹色に輝く竜の退治を命じました。
その国王は、重い税を国民に強要しておきながら、自分は豪遊をしているような愚か者でありました。
竜を退治させようとしたのは、賢くそして慈悲深い竜が人々に取り入って、人々に反乱を起こさせないようにという狙いが実はあったのです。
一方、竜を討伐しに行った戦士たちは、竜との死闘の中で互いの強さ、志に感銘を受けたのでした。
幾つもの春が過ぎて行ったある日、竜との決着がつかず、何度も戦いをするうちに痺れを切らした王が戦士もろとも竜を殺そうとしました。
竜が本当は慈悲深く賢いという事を知った戦士らは反発し、王を見限り竜と協力して王を倒すことにしました。
乱闘の末、ついに王を討つことができましたが、その見返りに竜も死んでしまいました。
死ぬ間際に、竜は戦士一人一人に色の違う鱗を与えました。
以後、彼らの子孫には体のどこかに「竜の鱗」と呼ばれる印があるとされました』
これが僕たち竜人族の成り立ちだといわれるお話。
アルは…ほら、おとぎ話とか、そういう話はあまり好きじゃないから、知らなくても無理はないかもね。」
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