「何ですか、話って」
部活後、俺は剣城を部室に待たせて置いた。俺は今からこいつに酷い事をする。何度も止めようと思ったけど、抑えられなかった。今でも自分の中でやめろと言う声が聞こえるのに。
「ああ…天馬の事だ」
緊張で口がからからに渇いていた。天馬の名前を出すと、剣城は複雑そうな表情を浮かべた。
「単刀直入に言うが、お前は天馬の事が好きだな」
当然だが至極驚いた様子の剣城は、口を開いたり閉じたりして、言葉を探してるようだった。俺は黙ったまま反応を待つ
「…それは、仲間と言う意味では無いですね…?」
「……ああ」
確信に近い確認をした剣城は、俺の返事にただ嘆息した。それから小さく「キャプテンには関係有りません」と言った。中々潔いじゃないか。俺は構わず続ける
「だが天馬はどう思ってるかな」
「…何が言いたいんですか」
「天馬は、狩屋の事が好きなんじゃ無いか?」
「!」
剣城のその顔を見た瞬間、正直やったと思った。俺は天馬と狩屋が最近極親しくしているのを知っていた。それから剣城が何を見たのかも。天馬が何故わざわざそんな事をしたのかは分からないが、俺の予想では妬かせたかった、とかそんな事だろう。でも剣城はそんな思惑には気付かず、傷付いたようだ。可哀想だとは思えなかった。
伏せ目がちで目を合わせようとしない剣城に、俺は態とらしく悲痛な声を出した
「俺もなんだ」
「……え?」
「俺も、好きな奴がいて、でもそいつは他の奴が好きなんだ」
剣城の瞳が揺らいだのが分かった。一気に畳み掛ける。
「だから、お前の気持ちがよく分かる。俺も凄く…辛いんだ」
これは嘘じゃない。天馬が剣城を好きだと分かった時、俺は苦しくて凄く悩んだ。だけど今はあいつを見守る事を選んだ。『見守る』と言っても、天馬の恋が順風に行くよう見守る訳じゃない。別の言葉に言い換えるなら『監視』と言っても良いかもしれない。
「キャプテン…」
剣城の声音から刺々しさが消える。何だ、案外簡単だなと思った。口元が緩むのをどうにか堪えて、儚げな表情を繕う。そして俺はゆっくりと剣城へ近付いた。困った顔をする剣城を見上げ、俺は目の前の腰に腕を回した。
「えっ。キャプ、テン…?」
戸惑いつつも、根が優しい剣城は俺を引き剥がせないで、手を空に迷わせている。そんな優しさに付け入る様に、俺は回した手をぎゅうと締めた。頭を剣城の胸に当てて、更に密着する。
「傷の舐め合いとか…お前は嫌いそうだな」
剣城って意外と体温が高いんだ。冷たそうなイメージがあったから。俺は耳を付けて、剣城の心臓の鼓動を聞いた。
「霧野先輩ですか……?」
霧野?ふうん、端からはそういう風に見えるんだ、俺達。都合が良いから否定はしなかった。霧野には後で何か渡しておこう。
すると驚く事に、剣城は片手で俺の背中に触れてきた。慰めのつもりだろうか。
「キャプテンの気が休まるなら…俺はそれで……」
「剣城……」
なんだ。笑っちゃうくらいお人好しじゃないか。初対面からは想像出来ないくらいに。俺は自分の良心がちくりと痛んだ気がしたが、何を今更とそれを一蹴した。
俺は顔を上げて剣城を見つめると、剣城も俺を見つめてきた。これじゃキスしても文句は言われなそうだな。いくら剣城を苛んでいるとは言え、流石に唇にはしたくない。俺は丁度目に入った剣城の白い首に唇を寄せると、ちうとその肌を吸った。
「……っ」
これが天馬なら良かったのにとか、本当今更だ。俺は別に、あいつの隣を望んでいないと言うのに……。
「可愛い」
唇を離しそう言えば、剣城は頬をほんの僅かに染めて、首を横に振った。
こいつも、俺が天馬だったら、とか考えてるんだろうか。いっその事、天馬を忘れて俺を好きになれば良いのに。そうしたら天馬の隣には誰もいない。
俺は下品な事とは知りつつも、自らの下唇を舌で一舐めした。
∴愛とは銀色をしてるらしい