鬼道有人はセックスに於いてもまた実に支配的であった。本人に言った事は無いが、影山仕込みの上に立つ人間としての何たるかが、こんな所でもしっかり生かされていた。頭上でロープによって一括りにされた両手首は、当然の様に赤く腫れ上がっていたし、胸や腹、持ち上げられた太股を見れば無数の鬱血痕が主張していて、我ながら何とも痛々しかった。もう何度目かも分からない射精のせいで俺の腹は白く汚れているのに、鬼道は未だその腰を動かすのを止めなかった。暗い室内にはむせかえる様な匂いが充満し、シーツが擦れる音と荒い吐息だけが響く。俺に覆い被さる鬼道の顔が近付いて来たと思ったら、首筋に容赦無く噛み付かれた。痛え。その瞬間、丁度鬼道のちんこが俺のイイ所を抉って、俺は堪らず喘いだ

「アぁッ……ぅ…」

鬼道は実に嬉しそうに口元を歪める。俺は情けない顔を隠す事も出来なくて、持ち上げられて無い方の足でシーツを掻くだけだった。こんな一方的なセックス、嫌なはずなのに酷くされる程興奮してしまう俺は変態に違いない。鬼道が俺の乳首をぐいと捻る

「ぃた…っ……」
「よく締まるな」
「そう、…かよ…」

俺は奥歯を噛み締めた。きっと俺のアナルは色んなものでもうぐずぐずに違いない。奥歯の隙間から絶え間無く溢れる吐息が酷く耳障りだった。鬼道にずこばこ好き勝手に突かれて、俺はまたイキそうになる。嫌だ。やめろ。

「はぁ…くッ、そ…ァあ……ッ…」

鬼道が舌を絡めてきたが、俺はそれに答えなかった。俺の口周りは2人分の唾液で汚れた。前立腺を集中力に突かれれば、気持ち良すぎて目の前がチカチカし出す。俺は焦点の合わない目で鬼道の薄い唇を見やると、重い頭を上げて思い切りそこに唇をぶつけた。がつん。歯の当たる鈍い音がした。鬼道は、俺にまだそんな余力が残っているとは思っていなかった様で、赤い瞳を若干見開いた

「おれがする…」

そう囁くと、暫しの間の後、鬼道は渋々といった表情でちんこをずると抜いた。駄目元で言ってみたが、正解だった。この前喧嘩の時に、お前のセックスは独り善がりでただのオナニーだと罵ったのが効いているらしい。俺はケツが疼くのを無視して腹筋のみで上体を起こした

「そこに寝ろよ」

顎で指示すると、鬼道は溜め息を吐いて乱れたシーツの上に仰向けに寝た。今の今まで俺の中に入ってたイチモツは、当然の如く天を向いていて、鬼道のスカした面とのギャップに俺は最高に興奮していた。前屈みになって鬼道のちんこにそろりと舌を這わせる。挑発的に視線をやるが、相変わらず鬼道は冷めた目で俺を見ていた。ならばもういいと、俺はふうと息を掛けてから顔を離すと、ゆっくりと鬼道の腰に、立て膝のまま跨がった。

「つまらなそうだね」
「俺が騎乗位をあまり好いていないのは知っているはずだが?」
「うん、知ってる。でもこれ元気だぜぇ」

俺は真下にある鬼道のちんこを手で軽く叩いた。やっぱりべとべとしている。鬼道は何も言わないから、俺はそのままゆっくりと腰を下ろした

「ハァ、ッ…んっ……」

さっきより深く、奥まで犯されているのが堪らない。俺は仰け反りながら、思わずぶるりと震えた。生理的な涙が頬を伝う。散々焦らしたそこはもう限界で、鬼道の表情を伺う余裕なんて無かった。俺はゆるゆると律動を開始する

「ッ……ふ、どう」

鬼道が俺の腰を強く掴んだ。普段は聞けない貴重な鬼道の上擦った声に、俺は更に頬を紅潮させた。

「アッ、やめ…ッ…はぁ、きど……」


俺は知っている。鬼道が俺の全てを支配したがっている事を。でもそれは不可能だって、おそらく鬼道も気付いてる。鬼道は今まで両親、影山と大切な人を失ってきたから、これ以上何も失いたくないんだと思う。分かっている。だけど俺は素直に支配されてやる気なんて更々無いし、お前の前から居なくなったりしない大丈夫だとも言ってやらない

鬼道が我慢の限界だと言わんばかりに俺の腰を持って上下に動かし始めた。強すぎる刺激に、俺はすぐに一際大きく鳴いて果てた。鬼道も少ししてから俺の中にどくどくと欲を吐き出したのが分かった。俺は未だ荒い呼吸を整える

「不動…」
「………なーに」

鬼道がゆるりと俺の腰から腹、あばら辺りまでを撫でた

「今日は自慰じゃなかっただろう?」

俺は吹き出した

「なに、やっぱ鬼道クン気にしてたんだ」

真剣な瞳をして何を言うかと思えば。縛りプレイの癖に変な所で真面目だなあと笑った

「当たり前だ。で、どうなんだ」
「う〜ん…」

暫し考える素振りで勿体振ってから、目を細めてにやりと笑った

「ヨカった。つーか別にいつもイイよ」

と言うと、鬼道は少し驚いた様子を見せてから、口角を上げフッと微笑んだ

「そうか」
「うん…」

俺はおもむろに、縛られている両手に目をやった。最中にもちらと見た通り、ロープの周りの皮膚は赤く、若干血が滲んでいた。俺は目を伏せると、こちらを見つめる鬼道に見せ付ける様に、そこへと唇を寄せた





∴深深と底無しへと塗り潰す