ヒロトは凄くモテる。彼はチームの主戦力のFWで、切れ長の緑眼を筆頭に顔がとても整っているし、纏っている雰囲気も落ち着いて大人だからそれは至極当然だった。今だって練習中ヒロトがシュートを決めれば女の子達から黄色い悲鳴が上がる。ヒロトはそれに困った様に笑いつつも軽く手を上げて答えるものだから、益々悲鳴は大きくなった。円堂は周囲に気付かれない程度に小さく溜め息を吐いた

「相変わらずヒロトさんと吹雪さんは凄い人気でやんすねえ」
「…え?あ、あぁ。そうだな」

集中しなければという思いとは裏腹に、円堂はヒロトの背中から視線を外す事が出来なかった。その時ヒロトが何気なくこちらに振り返り、円堂とぱちりと目が合った。凝視していた事に気付かれたのだろうか。慌てて視線を外そうとしたがそれより早く、ヒロトは円堂に言わせればまるで天使みたいににっこり微笑んだ。それを無視出来るはずもなく、円堂もぎこちなく微笑み返したのだった


円堂はついこの間から、場の成り行きで何となくヒロトと付き合っていた。円堂はヒロトが好きだったから万々歳なのだが、ヒロトはどうだろう。優しい彼の事だから、傷付けまいと拒絶しなかったんじゃないか等と考えてしまう。絶対に叶うはずがないと思っていた分信じようとしても、やはり勘繰ってしまうのだ

練習後ドリンクを受け取った円堂は、1人近くの川辺りに来ていた。

「本当に俺の事好きかなんて……聞ける訳無いよなあ〜」

円堂はがっくりと項を垂れて、川の流れを眺めていた

「円堂くん」
「え!ヒ、ヒロト!?」

背後からヒロトの声がして慌てて振り向くと、彼はきょとんとした顔で立っていた。咄嗟の事で裏声になってしまったからかもしれない。円堂は、まさかさっきの聞かれてないよな?と冷や汗を流した

「驚かせちゃったかな」
「や、全然?どうした?」
「…うん。円堂くんがここ2日くらい怖い顔で俺の事見てるから、どうしてかなと思って」

ヒロトはそっと円堂の隣に並んだ。何も触れて来ないという事は、先の独り言は聞こえてなかったらしい。円堂は取り敢えず安堵するも、単刀直入に話を切り出され少し唸った

「俺そんな怖い顔してた?」
「うん。試合の時以上に鋭かったかな」

円堂は思わず苦笑いをした

「悪い、考え事してて」
「…それって俺の事?」
「ああ」

沈黙になった。お互いじっと川の方を見ているから、表情は分からない。スパイクが砂利を擦る男がした

「何考えてたか聞いてもいい?」
「………正直に、答えてくれるか?」
「えっ。う…うん…」

円堂はすうと息を吸って、覚悟を決めた。今やヒロトは川ではなく自分の方を向いていたが、円堂はヒロトに視線を合わせる余裕は無かった。こうなったら、どうにか拙くても伝えなければ

「ヒロトは、モテるだろ?なのになんで男の俺なんかと付き合う事にしたのかなあって。あの場の流れで何となくオーケーしたんじゃないかって。それじゃ悪いからさ…だから、正直に聞きたいんだ」

俺の事好き?は流石に聞けなくて何となく尻切れになってしまった。横目でちらとヒロトを見れば何だか難しい顔をしてた。やっぱり無理してたのかな。ずきんと胸が傷んだ

「俺は…俺の方こそ君には相応しくないと思ってる。でも好きだって言ってくれたから、夢みたいで浮かれちゃって…初めにちゃんと伝えれば良かったね。…好きだよ、円堂くん。ずっと前から」
「ヒロト……」

円堂は驚いてヒロトを見つめた。ヒロトの緑瞳はきらきらしていて宝石みたいだと思った。頬なんてほんのりとピンクで、円堂はさっきまでの憂鬱が嘘みたいに身体中が幸福感とヒロトへの愛しさで満ち溢れた。こんな事って有り得るのだろうか。円堂は自分の頬を強く捻った。…痛い。円堂はこの高ぶりをどう表現すれば良いか迷ったが、衝動に任せる事にした

「わっ」
「本当なんだな、ヒロト!俺、今スゲー幸せだ!」

円堂はヒロトを勢いよく抱き締めると、全身で幸せを感じ入った。目を瞑り袖口に顔を寄せれば彼の匂いがした。ヒロトも一瞬反射的に身体を固くしたが、すぐに力を抜いて自身も円堂の背中に遠慮がちに腕を回した。円堂は、ヒロトがふうと息を吐いたのが分かった

「良かった。君も俺と同じ気持ちなんだね」
「ああ!」
「…円堂くんは俺がモテるって言ったけど、実際君の方が全然モテてると思うよ」
「はは、それは無いって」

円堂は笑って否定したが、ヒロトはやんわりと首を横に振った。そして額を円堂の肩に乗せて小さく呟いた

「君は自分に向けられる好意に鈍感過ぎるよ」
「えー?」
「ねえ、これだけは覚えて置いて。…俺を人間にしてくれたのは君なんだって事」

円堂は、ヒロトがエイリア学園時代の事を言っているのだと何となく分かった。宇宙人のふりをして吉良の為に戦ったヒロト。まだあの時はグランだった。そしてそれを止めた自分達。正直ヒロトは恨んでいるんじゃないかと思っていた。正しい事だったとはいえヒロトの太陽を奪ってしまった事に変わり無かったから。背中に回されたヒロトの腕が強くジャージを掴んだ。円堂はヒロトを救えたのだと信じたくて、力強くああと言った





∴宇宙が故郷