不動は悩んだ末1週間振りに部活に出る事にした。鬼道と普通に接せる自信はあまり無かったが、サッカーをも避け続けることは出来なかった。

「あれ不動!お前今日は出んのか?」
「おう」

部室でウェアに着替えていると、チームメイトが寄ってきた。素直に喜んでる奴と部則を破った不動を咎める様な視線を送る者もいた。着替え終わると不動はグラウンドに出て、準備体操を始める。少しして何気なく視線を移すと、向こうから鬼道が顧問と話ながらやって来たが、不動は構わず柔軟を続けた。

「………不動」

鬼道はぼそりと独り言のように不動の名を呟くと、ゆっくりと不動の傍までやって来た

「今日は来たんだな」
「悪いかよ」
「いや、もう来ないのかと思ったからな…良かった」

視界の端で鬼道がふっと笑ったのが分かった。今日は不動の皮肉も気にならないようだ

「その…昨日はすまなかった。ついムキになってしまって…腕、痛めたか?」

鬼道は顔を引き締め、申し訳なさげな声を出した

「見りゃ分かんだろ。痣になってるっつの。脚力だけじゃなく握力まで鍛えてるなんて、恐れ入るよなあ」
「そうか、本当にすまない…」

不動は正直もう鬼道に何処かに行って欲しかったし、そういうオーラを出しているつもりだったが、会話が途切れても一向に鬼道はその場から離れようとしなかった。どうやら青あざの出来た不動の腕をじっと見ているらしい。居心地の悪さを感じた

「…不動、俺は、お前に何かをしてしまったんじゃないか?その痣以外にも」

不動の肩がぴくりと動く。不動は今日初めて鬼道の方を向いた

「ふうん。何でそう思うの?」
「お前の俺に対する態度が微妙に違う気がしてな。俺のせいで部活に来ないのかと思ったんだ」

不動は、流石に鋭いなあと思いにやりと笑った。やはりどこかしら態度に出てしまっていたようだ。それでも認める訳にはいかなかった

「相変わらず自惚れが酷いな。世界はお前を中心に回ってる訳じゃねえんだよ」
「別に自惚れてなどいない。お前に何かしてしまったのなら謝りたいだけだ」

意味分かんない

「だから、何もしてねえし、仮にしてたとしてもお前には何の支障も無いだろ」
「何っ?」

鬼道は不愉快そうに眉を寄せた

「俺がお前を特別嫌ってたとしても、お前には何の支障もない事だ」
「貴様は……俺が嫌いなのか…?」

自分で言った言葉に何故か不動の方が傷付いた。でも本当にその通りだった。鬼道にとって不動はただのチームメイトでありそれ以上でもそれ以下でもなかった。不動は一呼吸置いてから静かに口を開いた

「ああ、嫌いだ」

言った瞬間鬼道が傷付いた顔をした気がするけど、多分気のせいだ。自分の感情を投射したに過ぎない。不動は視線を地面に移した。今はいつもの表情を繕えていない気がしたから

「そうか、俺は好きだが……残念だ。…………そろそろ練習を始めるぞ。お前は今日Aチームだ」

そう告げた鬼道は不動の横を歩いてさっさと行ってしまった。一方不動はその場に立ったまま動かなかった。握り締めた拳に爪が食い込んで痛む。

「馬鹿みてえ」

鬼道の言った意味くらい分かってるはずなのに激しく鼓動する心臓が憎かった。

「俺だって………」

都合良く脳内変換して、干渉に浸る。不動の呟きは誰に届くことなくグラウンドに消えた