Один намек
今日も昨日と変わらぬ曇空が広がっている。
曇空を思い出すとき、思い起こされるのは、いつの間にか祖国の空ではなくこの東の大地に連なる大空へと変異していた。変わったのは自分だけではなかった。
一時期は流行っていた己の風刺画や新聞の上で踊った「堕ちた英雄」の字も今や消えてなくなった。
畢竟全ては民衆が好むゴシップでしかなかった。
評論家気取りの記者の視線を共有してるにすぎなかった。
英雄と呼ばれた過去も。売国奴と呼ばれた過去も。
「自分への評論を読んでいるのか、サヴァー」
「ええ、大佐。面白いものでね、久しぶりに見たものですから」
「で、今度はなんと書かれた?」
「『悪魔に魂を売った』と...」
「ふ...その容姿では仕方ないな。」
変化のない容姿、かつての敵の許に寄せる身。
「よいのか?放っておいて」
「所詮、庶民向けの道楽ですから。それに、やり始めたらきりがないでしょう?」
雑誌を閉じ、屑籠に投げ入れた。
「例のNSAの暗号解読員だが、部下に迎えようと考えている」
「へえ。後で挨拶しなくては」
「ああ、貴様とは親子ほども離れた年だが…同い年と言われても疑わないな」
全くこの方の性格は相変わらずだ。さて、この出会いは、この灰色の空が晴れるようなものになるのだろうか。
Ein Hinweis(ある一つの伏線)
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