周りが過保護すぎる件
※男主
小さな子供と、父親が手を繋ぐ光景は微笑ましい。それが、野球のバットやグローブなんてものを持っていたのなら、仲の良い親子の鏡のようなものだろう。
今ではアラサー教師(と言ってもまだ二十代)になったナマエも、自分の生徒がそういう風に歩いているのを見れば微笑ましく思うし、自身もそうだった、だなんて懐かしく思う。そう、懐かしく思うぐらいで、この年で手を繋ぎたいなど微塵も思わないのだが。
どうしてこうなった。
ナマエは小さくため息を吐く。自分の手を握り、引いて歩くのは自分の父親である。色素が薄くなり白髪が混じった髪を小さく後ろで結った彼は海賊のような眼帯をつけている。笑い皺さえなければ、きっと悪人顏だ。そして、自分もそっくりである。
半歩遅れて引きずられるように歩くナマエに、ナマエの父親ーー周りからはビッグボスと呼ばれる彼は、振り向いて首を傾げた。
「どうした?ナマエ」
「父さん、俺もいい年なんだ。手を繋がれるのはちょっと」
「どうして?」
そう言って首を傾げるビッグボスことジョンは、何も感じていないらしい。彼の中ではまだまだ自分は子供なのだろうな、とナマエは結論づける。父親である彼の自分に対するスキンシップは、他の兄弟と比べて昔から度を超えていた気もするが。
ナマエはため息をはいた。
「いい年の大人の男同士が手を繋いでるんだぞ?」
「あぁ、そうだな」
「……同性愛者に見られる」
別に、同性愛者を拒否をするつもりはない。アメリカは日本に比べそういうことにあまり縛られないし、自分の教え子がそうだとしても、許容できる。理解、は、難しいかもしれないが。
ただ、ナマエが教師という職につく以上は風評が着いて回るのも事実だ。ここで、父親ではなく恋人、と見られてしまえば、それは着いて回るだろう。生徒だけでなく、教師や保護者からの視線も痛い。
だから、と、手を離そうとすれば、ジョンは逆に手をギュッと握り、引っ張った。バランスを崩したナマエがジョンの胸に飛びごむ形で抱きとめられる。ふざけるな、と、ナマエが怪訝な表情を浮かべても、ジョンは笑ったままだ。
「いいじゃないか、別に」
「はぁ?」
「周りがどう言おうと、俺たちは親子なんだ」
「確かに、そうだが、」
ナマエは自分より少し高いジョンを見る。顔が近づいているのは気のせいだろうか。いや、家でのスキンシップは額だとか頬だとかにキスはされるが、野外ではやめてほしい。反抗しようにも、手が塞がれている。
「だが、こんな場所でそんな方法の親子のスキンシップを図る意味はない」
聞こえてきた声にナマエは安堵した。引き離され、助かったと彼を見る。ジョンとは真逆の位置に医療用の眼帯をつけた人、それはナマエの一番上の兄であるジョージだった。ジョージは紳士的にナマエを支える。
「ジョージ、親子のスキンシップの邪魔をするとはいい度胸だな」
「ナマエが嫌がってるんだ、邪魔をするのは当たり前だろう?第一、貴様のそれは親子のスキンシップとしては度が超えている」
な、と同意を求められナマエは頷いた。少なくともアラサーの息子に対するスキンシップではない。
「よそはよそ、うちはうちだろう?そういうお前も、」
ジョンが何か言いかけて、止まる。なんだろうか、と首を傾げるが、ジョージに笑顔で「ナマエは気にしないでいい」と言われた為諦める。臭いものには蓋をしろ、だ。何かきな臭い雰囲気になってきた。だいたい、ジョージとジョンが揃えば面倒なことになる。ナマエは逃げ道を確保するために辺りを見渡した。こういう、タイミングの良い時に現れる人をさがして。
視界の端に金色を捉えると手を振る。振られた相手は嫌そうにしたが観念したらしくこちらに来た。
「リキッド兄さん、」
「またやってんのか」
何処のカップルの修羅場かと思った、だなんていう言葉に二番目の兄ーーリキッドにナマエは固まる。やはり、そう見られていたらしい。
「親父もソリダスも馬鹿馬鹿しいからやめてやれ。ナマエも20やそこらの餓鬼じゃないんだぞ」
「20は大人だぞ、リキッド兄さん」
「ナマエは黙っとけ」
リキッドの言葉に反論してみるが、そのまま流される。ちなみに、ソリダスというのはジョージのあだ名だ。リキッドもそうだが、彼がリキッドと呼べとうるさいのでナマエは小さい頃からリキッドと呼んでいる。
「俺からすれば、まだ手のかかる子供だ」
「俺からしても、まだ手のかかる子供だ」
二人がそう返す。
「俺からしても、まだ餓鬼だ。でも、世間帯ってもんがあるだろう」
末っ子だからだろうか。まだまだ彼等の中では自分は子供らしい。少し、むっとする。
「後、親父、貴様はザ・ボスが探してたぞ。ソリダス、貴様はオセロットが呼んでいた」
「そういうお前は飛行訓練日だと思っていたが」
「今から行くんだよ」
ほら、しっし、とリキッドはナマエの肩をだいてジョンとジョージを追い払う。二人は渋々仕事に戻った。
「ありがとう、リキッド兄さん。助かった」
そう告げれば、リキッドは、ぽん、と頭を撫でて「飛行訓練いってくる」と手をひらひらと降って去って行った。
「餓鬼、か、」
「やっぱりナマエだったか」
背後から聞こえた声に、振り向く。三番目の兄であるデイヴィッドと、その友人であるオタコンだ。オタコンが苦笑いしているあたり、さっきのやりとりを見ていたのだろう。
「デイヴィッド兄さん、オタコンさん」
「相変わらずだねぇ、」
何処のカップルの修羅場かと思ったよ。リキッドと同じ事を言うオタコンにナマエは肩を落とした。やっぱりか。
「変な噂がたつからやめて欲しいんだが」
「だろうな」
「兄さん、他人事だとおもってるだろう?」
「他人事だからな」
はっきり言い放ったデイヴィッドに、ナマエは苦笑いを零した。
「はっきり言うなぁ」
「だが、あれはいいとしこいた大人に向けるスキンシップではないことはわかってる」
「やっぱりそうだよな、どちらかといえば、幼児にむけるそれだろう?いつになったら子供から脱却できるのか」
「結婚でもすればいいんじゃないか?」
「あぁー、家庭を持てばやめてくれる、か」
ナマエはため息をつく。結婚する予定は今のところ、ない。項垂れるナマエを見て、オタコンは提案をする。
「ナマエ、今からスネークとランチに行くんだけど、一緒にどう?」
「嬉しいが、遠慮する。元々、父さんとランチに行く予定だったから、父さんの分のサンドイッチを買って仕事場に訪ねてみるよ」
「……そうか」
「デイヴィッド兄さんもオタコンさんも、仕事頑張れ」
そう言って去っていくナマエに、デイヴィッドは小さく呟いた。
「まぁ、しばらくは結婚できないだろうがな」
「え?どういうこと?」
ナマエに届かなかった独り言は、デイヴィッドの隣にいたオタコンには届いたらしい。
「あいつらのナマエに対する過保護っぷりは異常だ。昔っからナマエは老若男女問わずモテるんだが、」
「だろうね、でも、本人はモテないっていってたよ?」
「あぁ、ナマエの知らないうちに、あいつらに処分されるからな」
「……え?」
「だから、しばらくは結婚もないだろう」
しれっと言い放ったデイヴィッドに、オタコンは固まる。処分だって?何を、とは聞かない。
「それ、教えてあげないの?」
「聞かれるまでは黙っておく。別に、こちらが困ることでもないしな」
「……スネーク、君も以外と過保護なんだね」
オタコンの言葉に、デイヴィッドは素知らぬ顔で「そうかもな」と呟いた。
周りが過保護すぎる件
[戻る]