異形は松永が望む者を数多と葬ってきたが、謝礼の類を求めたことは一度たりともなかった。
松永から何か差し出しても、
「これは何ぞ」
と言って、受け取ることはなかった。
あるとき、弾正が果心に問うた。
「謝礼も求めぬのに、お前は何故、私に協力する?」
「俺がしたい故な」
まだ納得がいかない弾正の様子をみて、異形は面倒そうに続けた。
「解せぬならば、貧乏神の類とでも思うがよい」
そういう異形の態度が、松永には不気味だった。
ただ己の望むことをやり遂げ、報酬を求めるだけの主と部下だけの、それ以外のなにものでもない関係ならばよかった。だがその男はあまりにも弾正自身に近かった。
しかし弾正がその男に強く反発してこなかったのは、男がいつでも弾正を殺せることが分かっていて、何より男の力を重用してきたからであった。
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