その男は何時も、松永が人を殺そうと考えているときに現れた。
「くく、いつ振りだったか。弾正、久しぶりよな」
また現れるのは何時も弾正が一人でいるときであった。故、松永の軍でもこの異形の姿を見るものは、弾正を除いて誰一人いなかった。
だが、松永が望んでこの男を呼ぶことなど一度もなかった。寧ろ松永はこの男を嫌い、酷く怖れていた。
「奴は、明日までには殺しておこう。それでよいな?」
「......」
「くく、ではな」
そしてこの男は、松永が思うところは全て把握していた。まるで松永自身のように。
もちろん、松永がこの男を歓迎しているわけがなかったが、彼がその男の力を使ったのは一度や二度にとどまらなかった。
何人もの人間が果心の術によって葬られていた。
[戻る]