「...」
どうやらこの男は手も触れず、人を殺めることができるようだ。
そう考えると己の命も、と松永は悪寒がした。しかし、この力は。
「ああ、だが言っておくが、右府はこう簡単には行かぬ。あれは、生命が強靭過ぎる故な」
松永は狼狽した。右府とは、信長のことである。同時に、この異形に思考までもが読まれていることが恐ろしくなった。
「何かあれば、俺に頼むがいい。また逢おう、弾正よ」
そう言い残し、異形は消えた。
できれば、もう会いたくはない。
先ほど従者が倒れたところをみると、そこに残っていたのは、その着物だけであった。
だが、あまり強い関心は抱かなかった。抱けなっかた、という方が正しいのかもしれない。
妙に疲れてしまった。それと、少し落ち着きたい。
自室で休むため、松永はその場を離れた。
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