光秀は、再び異形の元へ向かった。
袴に付いた硬く短い馬の毛も、全身にこびり付いた砂も体液も拭わずに。
「久しぶりよなぁ...日向守」
「...」
光秀は、男の飄々とした態度に殺意さえ覚えた。
「知っていたのですか。最初から」
「なにを...ああ、まあそう怖い顔をするな」
そう言いつつ、男はなんら動じることはなかった。
「俺はただ、浮かんだものを、そのまま言うただけよ」
光秀は唇を噛み締めたが、ふと先程、部下にこの男を開放してやるよう勧められたことを思い出した。
狐狸権現の類に害を加えれば、それを被るのは己自身である。
それに、この男の予言があろうがなかろうが、己は本能寺を攻めていただろう。
光秀は、ゆっくりと牢の鍵に手を掛けた。
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