光秀は、何かに引き寄せられるかのようにそこへ足を運んだ。
異形が幽閉されている牢。
近づくと、異形の紅い髪が揺れるのが見えた。
「ふむ、明智十兵衛光秀...」
嗄れた声と共に、男の鋭い眼が己を捉えると、全身を悪寒が這いずり回るのを感じた。
「日向守」
男はそのつり上がった口角を更につり上げて言った。
「...天も怖るる魔王は、南の正の色にその肩口より己が生を注ぎ...讃えられるべき英雄は、その志に己が名声を注ぐ」
「...何を、言っているのです」
異形は悪戯っぽく笑った。
「五年の内にわかる...」
本来ならば更に追求すべきなのだが、今は己の本能が、この気味の悪い男に近づいてはならないと叫んでいた。
光秀は、その場を足早に離れた。
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