ある時、果心は松永に問うた。

「俺を傍に置くのは怖いか?弾正」

「な、なにを唐突に...!」

その質問に弾正は一瞬怯んだが、すぐに睨むような表情をし、噛み付くように言った。

「我輩は悪党...この世に怖いものなどある訳がなかろう!」
「ほう...?」

その言葉に、果心は愉しげに笑った 。

「なれば、こんなのはどうか?」
異形のその一言と共に、まだ昼間であるにも関わらず、辺りは闇に包まれた。少し肌寒くなった気もする。
そして、暗がりうっすらと浮かび上がったそれに、松永は顔を青くした。

「くく...五年前に死んだ、貴様の妻」

かつて、己のもっとも近くにいた女なのだ。そんなことは、言われなくてもわかっている。

やがてその女はこちらに近づきながら消えていったが、まだ少し寒く感じる。

「...っ!!果心貴様っ」
松永は、目の前で悪戯が成功したかというような顔でこちらを見つめる男を睨みつけた。

異形はなんら動じる様子もなく、いつもと変わらない歩調でその場を立ち去った。

「なにがしたかったのだ...」
残された沈黙に、松永のその声だけが響いた。





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