かつり、かつりと。曹レイは暗い階段を下っていた。地下へと繋がる階段である。
何故そんなところにいるのかというと、誰もがもつ好奇心であり、少しでも暗いところに行こうとする曹レイ特有の本能のためである。
下り、下り、辿り着いたのは暴室であった。暴室とは罪のある貴人や皇后を幽閉する場所である。
そこには長い髪を垂らしうずくまる女が独り、顔色は悪いが目だけがぎらぎらとしている。
曹レイは口を開いた。
「あなた、名は?」
女は曹レイを見据え、掠れた声で言う。
「...伏寿」
伏寿。聞いたことのある名前である。献帝劉協の妻だった筈だ。
まあおそらく政のことで父の逆鱗に触れたのだろう。
「憎いか?父...いや、曹孟徳が」
「曹操は...逆賊よ...!...あの男がいるから...陛下は...!陛下は!...憎い...あの男を殺して...!!」
「...」
殺せないことは、ない。
だが殺しても私にたいした得はない。
それに、
「今殺さずとも、あの男は五、六年の内に死ぬ。私の予見だが」
「...本当...に...?...陛下は...陛下は...自由に、なる?」
丕は、きっと禅譲を迫るだろう。献帝がそれをどう捉えるかなど、知ったことではない。
「...さぁな」
そう言い捨て降りた階段を戻った。
父は憎まれでいる。そのことだけで、今は愉快で仕方ない。
祟りの女
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