私は、詩の嗜みなど知らぬ。
一生を過ごすのに、そんなものは必要ない。そう思っていた。
そもそも誰かに仕える気はなかったはずだったが、まさか詩好きの君主に仕えるなどと思ってもみなかった。
詩の話を振られて、困ったことも多くあった。
それでも、必要とは思わなかった。
私は、私の才知で乱世を越えればいい。そう考えたからだ。
あれはいつだったか、とにかく味方は少なく、敵は烏合の衆だった。
ただ、私と破軍がいた。
私が敵をおびき寄せ、破軍がそれに奇襲をかける。それだけで敵は簡単に崩れた。
そこで私の仕事は終わった。狼狽えた敵を、破軍が殲滅するだけであった。
破軍はなんの躊躇いもなく、表情の一つも変えずに敵を斬り捨てていく。
あの姿をみたとき、あの父子ならなんと喩えるだろうか。
「この躯が血潮に塗れようとも、私の血が混じることはない...たとえあの刃が私に届いたとしても、傷はすぐに塞がるだろう」
敵を斬り終え、血みどろの外套を纏った破軍が、暗がり空に詠いあげる。哀しく、哀しく。
「ああ、ならばこの心臓から流れでる血は、いつになったら止まる?」
ああ、私には理解できぬ。
餓狼
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