何度ぶつかり合っただろうか。しかし、互いとも息一つ乱していない。

「手加減とか、してない?張遼殿」

「まさか」

張遼が、得物を構え直す。

「鄭鵞殿こそ、余裕がお有りのようですな」

再び、ぶつかる。そこに、

「伝令!!」

二つの声が響いた。
報は同じ。華雄が討たれた、と。

「む...」

「おっと。では私はこれで、」

瞬間に馬を返した。
張遼に追撃する様子はない。追いつけないと判断したのだろう。


そのまま駆け、孫堅と合流した。

「鄭鵞か!さすが、無事なようだな」

「はは、孫堅殿が迅速に華雄を討って下さったおかげですよ」

孫堅の軍勢は皆血塗れだったが、大した損害はないようだ。

「うむ。このまま軍営に戻ろう」



この後も孫堅は最前線で董卓と睨み合っていた。だが、

「まだ、か」

なるべく董卓討伐に集中したかったが、後方支援に問題が起きていた。兵糧の運搬は袁術に任されていたが、その袁術から兵糧が届かないのだ。

「孫堅殿...」

「ああ...わかっている」

孫堅は、唇を噛み締めた。催促は何回もした筈だ。だが、やはり届かない。
ああどうして、どうしてこうなのだ。

「孫堅殿、袁紹殿のところから兵糧を頂いてきますね」

「ああ、頼んだ。...俺は、袁術に会ってこよう」

鄭鵞と孫堅は、それぞれ馬に跨った。


「ぬ?鄭鵞か?どうしたのだ」

河内には、特に変わった様子もない、袁紹がいた。随分と暇そうなことだ。

「...袁紹殿。前線への兵糧供給が滞っていて...少々食糧を頂いてもよろしいでしょうか?」

「む、そうか...兵糧の郵送は袁術の役割だった筈だが...うむ、まあよかろう。許可する」

「ご協力感謝します」

許可が貰えなくとも、勝手に持っていくつもりではあったが。


兵糧を積ませている途中、今度は嗄れた声に呼び止められた。

「鄭鵞殿」

「田豊殿...!」

「...前線の戦果は上々のようですな」

「はは、お陰様で」

ああして前線で戦をできたのは田豊の進言あってのことである。

「しかしながら、あなたがここに来たということは...袁術殿が兵糧を...時間がないというのに」

「時間がない?...まさか、董卓がなにか」

「ええ...洛陽の民と帝を連れ、長安への遷都を考えていると」

長安は今、焼け野原になっている筈である。そこに民まで連れていく、ということは。

「董卓は、洛陽に火を...」

洛陽を焼き、長安に新たに都城を築く。誰に築かせるのか。もちろん、連れて行った民にだ。

「袁紹殿には?」

「お伝えしたが、信じて頂けず」

「そうですか...」

確かに信じがたい話であろう。後漢二百年の都を焼くなど。だが、董卓はそれをも。

「シ水関は、戻ったらすぐに孫堅殿と攻めます。しかし、あの数で抜けるか...」

「ええ...そうは言っても、出せる増援がありませぬ。申し訳ないが、鄭鵞殿」

「まあ、やれるだけやってみます」

ちょうど、兵糧も積み終えたところであった。田豊との、視線が交わる。

「鄭鵞殿、ご武運を」

その言葉に見送られ、来た道を再び辿った。

さて、孫堅殿の方は、無事に説得できただろうか。

義を示す



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