其処は唯昏く、不快に感じる程に湿気ていて、吐気を催すような匂いが充満していた。

どこだ、ここは。私は何故、こんなところにいる。
何も見えない、何も聞こえない。ただ自分の足元に、何やら形が不一定で硬いものが幾つも転がっていることは分かった。拾い上げてみると、それは陶器のように冷たかったが、ひとの手の形をしていた。
何故、こんなところにいるのだろう、ともう一度考えを巡らせた。しかし、何も思い出せない。
特に目的もなく、歩き出した。

歩き、歩き、歩き、やがて血生臭さから開放され、歩き、歩き、歩き、やがて空が赤く黄金に染まってゆく。

そして人影。初めて見た、生きている人。
「...む...そなたは...」
黄色の姿に、甲高い声。

「黄金の眼...もしや、天より遣わされし者か...!」
「...え...と...」
...何か、とんでもない勘違いをされている気がする。
弁解したいのはやまやまだが、

「やはり我は決起せねばならぬか。蒼天已に死す、黄天当に立つべし!」

こうなってしまってはもう何も耳には入るまい。

「さあ、天より遣わされし黄天の女神よ、我と共に!」

本来なら、ついて行くべきではないのだろう。だが、他に行くあてもない。黄天の女神、などではないが。


黄金の糸



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