(さやかと杏子)
人を支えたり守ったり、励ましたり癒したりするのは相手の言葉じゃなくて、相手の声なんじゃないかと、さやかは思う。
正直、さやかは女の子にしては口の悪い杏子の言葉に支えや守り、励ましや癒しなんて感じたことはない。
けれど、彼女の声には少なくとも励ましと癒しの効果があると感じている。
隣で袋一杯に抱えた熱々の肉まんを頬張る杏子をさやかは横目でちらりと見る。
幸せそうに肉まんを頬張る顔はなんだか可愛い。
けれど、頬一杯に詰められた肉まんのせいで杏子の声が聞けないことに不満をいだく。
「ねぇ、杏子。…なんか言ってくんない?」
「…んー」
もぐもぐと口を動かしながらん、だのんー、だのを繰り返し、肉まんを飲み込むと杏子は八重歯を見せながらにっと笑い、
「さやか、あんたも食うかい?」
と言って笑みを深めた。
さやかは、そればっかだなぁ、と呆れたように苦笑をするもすぐに笑みを浮かべる。
「まぁ、いっか。ねぇ、杏子。あたしも食べる。一個ちょうだい」
「へへっ、その言葉、待ってたぜ。ほらよ」
さやかは杏子から肉まんを受け取ると彼女と同じように頬一杯に頬張った。
自分の姿にけらけら笑う杏子の声に心地好さを感じながら。