※現代パロ
(スコールとクジャ)
何故呼び止めてしまったのだろう。
肩越しに振り返ったクジャの瞳がぱちりと合った時、スコールは自らが声を掛けた事を悔いた。
青い瞳が不思議そうにうかがうのが耐え切れなくて、先に瞳をそらしたのはスコールだった。
スコールはただ、自分の隣を歩いて欲しいとクジャに言いたかっただけなのに上手く言葉にならない。
隣に居てくれないと繋ぎたい手は繋げず、渡したいものも渡せない。
声にならない言葉を飲み込む。
一言名を呼んだ後、黙り込んでしまったスコールにクジャは不思議そうに首をひねるも彼が話すのをそっと待った。
だが、スコールは一行に口を開く素振りがない。
しびれを切らしたのかクジャはつぶやく。
「わかってあげられればいいのに」
声に反応してクジャに顔を向けたスコールを見つめて苦笑を浮かべる。
「言葉にしなくても顔を見ただけでスコールの心がわかればいいのに」
それは無理な事だ。
スコールもクジャもわかっている。
どれだけ想い繋がっていても言葉にしない限り心はわからない。
否、想い繋がっているからこそわからない。
気まずい空気の中、スコールはそ っと口を開く。
「隣を歩いて欲しい」
「え?」
「あんたに俺の隣を歩いて欲しいんだ」
かぁっとスコールの頬が真っ赤に染まる。
その様子を見てクジャはくすりと小さく笑い、スコールの隣に寄り添うように立つ。
「これでいいかい?」
恥ずかしさにさいなまれながらスコールがクジャを見やると、さっきまでスコールの様子を可笑しげに笑っていたクジャの頬もほんのり赤く染まっていた。
「あぁ」
スコールはうなずく。
そしてポケットの中から小さな指輪を出した。
「これ、アンタにやる」
「え?」
クジャが手渡されたのは物産店なんかでよく見られる玩具の指輪。
薄紫がかった偽物の宝石が玩具の指輪がクジャの瞳を奪った。
黙ってじっと見つめているとスコールはバツの悪そうな顔になる。
「やっぱり返してくれ」
クジャの手首をつかみスコールは苦笑を浮かべる。
「そんな玩具じゃ嫌だろ」
所詮は17歳。
本物の指輪を買うお金なんかは持ち合わせてはいない。
それでも、クジャに指輪をプレゼントしてやりたかった。
あの男が恋人に指輪をプレゼントしたように。
「嫌なんかじゃないさ」
つかまれた手首をクジャはぐんと引っ張る。
そして空いた手で指輪を覆った。
「僕にくれるんでしょ?」
ふわりと微笑みを浮かべたクジャが見つめればスコールはうなずいた。
「…有り難う」
恥ずかしげにつぶやくクジャの手の中で薄紫がかった偽物の宝石は自らを本物だと主張するかのようにキラキラと輝いていた。