※現代学パロ
(文次郎と仙蔵)
はっはっはっ、
短く息を吐きながら文次郎は走る。
ただがむしゃらに走る。
走る走る走る。
目指す場所は大きな時計が目印の公園。
文次郎が仙蔵と待ち合わせをした場所だ。
本来ならば今現在の時間の三時間前にはその待ち合わせ場所に着いていなければならなかったのだが、思いの外、長引いて仕舞った生徒会活動により已む無く待ち合わせ場所への遅刻を余儀なくされ、今に至る。
正直、もう仙蔵は待っていないんじゃないかと思う。
冷静沈着と言い、言われる割りに気が短く短気な仙蔵は、我が儘に他人を待たせるタイプではないものの、他人を大人しく待つタイプでもない。
そんな仙蔵が自分の為に三時間は愚か、一時間すら待っていてくれるだろうか。
きっと、三十分やそこらで痺れを切らして帰って仕舞ったに違いない。
そうは思うものの、もしかしたらまだいるかも知れない、待っているかも知れないと言う淡い期待を抱かずにいられない文次郎の走る足は速度を上げ、止まる事を知らない。
ふと、見上げれば視界には大きな時計が映る。
後、少し、もう少しだと文次郎が走る足に速度と勢いを込めたその瞬間、聞き慣れた声が耳に届いた。
「遅いぞ、馬鹿者」
耳に届いたその聞き慣れた声は紛れもなく、自分と待ち合わせをしていた仙蔵の声で文次郎はばっと顔を上げる。
目の前には口を隠すように紫色のマフラーにすっぽりと顔を埋めて鼻先と頬を真っ赤にした仙蔵が白色のコートのポケットに手を突っ込み立っていた。
「…仙、蔵」
「惜しかったな。後、一時間、遅れていれば私は帰って仕舞っていたと言うのに」
「否、惜しいの意味がわからんのだが」
「ふん、」
ぷいっとそっぽを向く仙蔵にやっぱり怒ってるよなと苦笑しつつ、ごめんなの意味を込めて文次郎は仙蔵の頬にそっと触れる。
仙蔵の頬は真っ赤に染まるその色とは裏腹に氷の様に冷たく、また、頬に触れた文次郎の手に重ねた仙蔵の手も紫色の手袋越しだと言うのに氷の様に冷たかった。
文次郎はその冷たさにいたたまれなくなると同時に愛おしさを感じ仙蔵を力一杯、抱き締めた。
「阿呆!ここは外だぞ!こんな処で抱き締める奴があるか!」
既に真っ赤に染まる頬を更に赤く染め上げてきつめの口調で言う仙蔵だが、言葉と口調の割りに怒る訳でも嫌がる訳ではなく、寧ろ恥ずかしいが嬉しいと言うような表情を浮かべている。
その表情に安心し、文次郎は更にきつく仙蔵を抱き締め、仙蔵も文次郎の背中に腕を回して、力一杯、抱き締めた。