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(文次郎と小平太と長次)

※現代学パロ


拍手鳴り止まない体育館を怪盗紳士の衣装を身につけたまま小平太は飛び出した。
背中にはギターケース。
演劇の次はバンド演奏だ。
舞台で見せた軽やかな動きそのままに屋台の並ぶ街路樹通りを突っ切る。
学校中がお祭り一色。
焼きそば、たこ焼き、お好み焼きの香りに生徒たちの呼び込みの声が響いている。
小平太は怪盗の衣装で踊るように飛ぶものだから、先ほどの演劇部の公演の続きのようにも見えただろう。


「お!」


仲のいい友人と後輩が談笑しているのを見つけて小平太は急停止。
制服に風紀の腕章を嵌めた綾部、藤内と和服の伊作だ。
綾部が軽く握った拳を小平太の頭に下ろした。


「人混みを走るな、って立花先輩がいたら言うと思いますよ」

「すまんすまん」

「まったく、浮かれ過ぎですよ」


藤内にまで叱られて小平太は頭を掻いたが、慌ててそうじゃなくてと取り直す。


「文次郎と長次、知らないか?」


綾部が小首を傾げる。
伊作が頷く。


「文次郎先輩ならクラスの方じゃないでしょうか?」

「喫茶店だから校舎の二階だったと思うよ」


有り難う!と礼を言うが早いが駆け出して、その背中を藤内の「走らないでくださいってば!」という怒声が追いかけた。
校舎に飛び込んでなお小平太は走る。
過ぎていく景色の中に綺麗な衣装の美女が見えたがあれは去年のミスターミス優勝の仙蔵に違いない。
今年も出るんだ、優勝は間違いないなと小平太は後ろに向かってサムズアップ。


「文次郎!」


喫茶店六いと書かれた看板の下をくぐり抜けて小平太がまさしく着地するとその教室は普段の姿が思い出せないほどの装飾がなされていた。
貴族好みの白レースで覆われたテーブル、ワインレッドのベルベットが敷かれた椅子、カーテンまでも重そうに垂らされたシルク。
そんな中、ギャルソン姿で女性客に給仕する文次郎を発見。
文次郎はちらりとこちらを見て嫌そうに顔をしかめてからすぐに客に向き合った。
女性客はうっとりと文次郎を見つめている。


「似合うけど似合わない」


走ってきて乱れたままの呼吸で苦しそうに笑う小平太の頭の上に、温かい何かが置かれた。


「出前にきたぞ」


呑気な声は留三郎のもので頭に置かれたのはビニール袋に入った焼きそばとたこ焼きとお好み焼き。
留三郎の隣には彼と同じく和服姿の与四郎が立っていた。
文次郎と同じ格好をした女の子が彼らに代金を払い、品物を受け取っていく。


「お疲れ!」


小平太が笑うと与四郎もにっこりと応えた。


「小平太、劇すんげぇよかったべ」

「有り難う!」

「留三郎なんてオラの隣で号泣してたべよ」

「言うなっつの!」


確かに留三郎の鼻の頭が赤い。
きっと今、手渡されたお好み焼きとたこ焼きとお好み焼きはちょっとしょっぱいんだろうなと考えていると漸く文次郎が寄ってきた。
文次郎はギャルソン姿にベースのケースを背負っている。
留三郎が茶化す。


「格好いいじゃんか、文次郎。その格好で弾くのか」

「着替えを更衣室に忘れたんだ」

「そっちの方が店の宣伝になるんじゃないか?」


それから頑張れよの声を受けて再び小平太は文次郎を連れて走り出した。
走りながら問うのはもう一人の仲間の所在。


「長次は?」

「中庭、噴水池の前」


噴水池の前には沢山の人だかりが出来ていた。
その上をいくつものカラーボールが舞っている。
赤、青、黄色、紫、白に銀色。
それらが次々に二本しかない筈の長次の腕を通過していく。
無表情の長次はカラーボールを全て白い袋で掬い収めるとタイトな黒ベストからハンカチを取り出し、もう片手で黒い蝶ネクタイを外してハンカチの中に入れた。
見守る人々の視線の中、ハンカチから出てきた長次の指の先には美しいアゲハ蝶。
わあっと上がる歓声の中、蝶は舞い上がり、その隙に長次の姿は消えていた。


「っとに、遅刻しちゃうぞ」


三度走りながら小平太は隣を走しる長次に文句を言う。
長次はドラムスティックを握りしめたまま、小さく笑った。


「…アンコールの、…嵐だったんだ」

「次の演奏もそうありたいものだな」


続いて口を開いた文次郎は声のテンションがいつもより高い。
三人を迎えるのは校庭のステージと美術部力作の大きな看板『第13回学園祭』の文字。
簡易なステージに三人は飛び込んだ。
若さのど真ん中に着地する。
ギリギリアウト。
司会の雷蔵と三郎が困ったように笑う。
そして、三郎は困ったように笑ったままマイクを遊ばせる。


『全く、遅れて登場とはいい気なもんだよな!我が校が誇るバンド、鍛練組です!』


拍手喝采。
それはこの祭りの高揚全てを称えるように。
踊るシールドがアンプにオン。
試し打ちに歌うドラム。
ベースがチューニングに低く唸る。
ふっと笑う文次郎と長次の口元。
ぴりっと緊張が電気みたいに走る。
小平太はスタンドマイク越しに不敵な笑顔で観客を睨みつけた。
乱れた呼吸をねじ伏せてこのスピードを抱えて。


「行っくぞー!」


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