※現代パロ
※兄弟パロ
(佐吉と伝七)
『美味しいケーキ、可愛い雑貨、カッコイい店長、最高です』
『今日は幼なじみと来ました。いつか彼氏と来たいなぁ』
『コーヒーの種類がもっと多いと嬉しいです』
店のカウンターで、お客さんが書き込む感想交換ノートを捲りながら伝七は優しい目をして微笑んでいた。
カフェタイムからバータイムに移行するまでの短い休み時間。
もう手馴れたもので、夜の仕込みは終わってしまった。
後はギャルソンエプロンを外して、黒い蝶ネクタイと、揃いのベストを付けるだけ。
ギャルソンからバーテンダーに変わるのみだ。
「ごめん、伝七!遅くなった!」
からんからんとドアベルを鳴らして駆け込んできたのは伝七の弟の佐吉。
彼はこの春、都会の大学で勉強をはじめる為にすでに独立していた伝七の元に転がり込んできたのだった。
少し年は離れているもののもともと仲のいい兄弟は、上手く生活を共にしていた。
気のつく佐吉は伝七をよく手伝い、伝七は伝七で佐吉の大学進学に反対する両親を説得した。
その一方ならぬ兄弟愛は、世間からブラコンのレッテルを貼られるに相応しく、それに対して二人は確かにとそっくりな苦笑いを見合わせるしかなかった。
急いだ様子で手早く店の開店の支度をはじめた佐吉にまだ時間あるぞと伝七が声を掛けるのだが佐吉はちゃっちゃと用意をして仕舞った。
大学から急いで帰ってきたらしい佐吉は私服をさっさと脱ぎ捨て白いシャツを羽織った。
冷蔵庫を開けて指差し確認をしている。
いつもの事ながらしっかりしていると感心しながら伝七は佐吉のよく動く背中を見ていた。
それが突然振り返った。
「伝七、チーズ足りなくなるかも」
「本当に!?そう言えば解凍してなかったな」
今度は伝七が悪い悪いと謝ると全くしょうがないなと嬉しそうに冷凍庫から佐吉がチーズの袋を引っ張り出した。
ハサミで袋を切って器用にトレイに移しかえる。
機嫌がよさそうに上がった佐吉の口元に満足感を覚えながら伝七は壁に掛けられた時計を見た。
「適当で大丈夫だ、佐吉。もうすぐ兵太夫が来る」
兵太夫は伝七の通っていた大学の同輩で教師をしているが暇を見付けてはバイトとしてここでこっそり働いている。
佐吉はとんとんとトレイをまな板の上で揺すってチーズを均した。
「兵太夫、来るの早いからな」
佐吉の手は淀みなくラップを掛けつつ笑った。
「もっと僕と伝七、二人で話す時間があってもいいと思うんだけど」
爽やかな甘えの含まれた言葉は伝七に驚きと喜びをもたらすには十分でついにやける頬を押さえてしまった。
頼りになって甘え上手、兄として誇らしい。
ブラコンなのは持病ですと心の中で呟いて。
「そうだな。稀には二人で雑貨の買い付けに行くのもいいな」
「賛成」
すかさず万歳をする佐吉が可愛い。
伝七はすぐに臨時のアルバイトを雇う算段を胸の中ではじめた。