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※R18

(文次郎と仙蔵)


仕掛けたのも誘ったのも仙蔵なのだから、何故と思うのは可笑しな話ではある。

しかしその疑問などとは無関係に、目の前の男は快楽に虚ろ口を開き、仙蔵を揺すっている。

彼は普段、仙蔵の美しく華やか空気とはまるで逆の、素朴な空気を持つ男であった。
今まさに、肌を合わせて、息も汗もぐちゃぐちゃに交わらせてしまえば、そんなものも関係なくなるのだが。
それでも、そう、不思議、不思議。


「余裕、あるんだな」


詰まらせた息で、男は少し、笑う。
そう言いながらも責める角度を変えて快楽を押し付けてくるのだから侮れない。
仙蔵は奔放に喘ぐ事はせず、切なく息を散らした。


「よく、言う、…んうっ」


仙蔵の自身を遠慮なく握る手も美しさとはかけ離れた粗雑な感触。
しかし、それがしっかりと仙蔵の快感に馴染む。
下腹部に力を込めれば中で摺り動く彼の形と熱がはっきり感じられた。
ちゅっちゅっとキスを繰り返すような音が聞こえるのが下からだなんてはしたない。


「…は、あ」


侵食する熱は、焼き尽くすほどでもないというのに、なによりも意識を支配している。

痺れるような心地よさ。


「あ、んっ」

「気持ち、いいか?」


びくんと跳ねる仙蔵の白い濡れた体を文次郎は愉快そうに見る。
色めいた雰囲気を察することの無い悪戯な微笑みは彼そのもののような現実性を持っている。

この男にとって浮き世は容易かろう。

演習中や実習中、拳や武器を向ければなんの躊躇いもなく、全力の拳や武器を返してくる。
色を誘えばこのように、極上の愛撫を提供してくる。

その軽々しさ、気安さ。
情の匂わぬ約定が如きふるまい。憎い。


「お前、は、馬鹿だな」


生理的に滲む涙の向こうでは文次郎の快楽に染まった頬が幼く緩んでいた。

曖昧な輪郭。

この男はそれで満足なのだろうか、否、そんな思考に囚われてすらいないのだ。
世界に自分を刻み付けようとする程に真摯でないのだ。憎い。

満ち足りた男めが。
美しくも、強くも、ないというのに、満ち足りた、…。

白く弾けた。
昇って叩きつけられて思わず開いた左手に縋るつもりはなかったはずだが、するりと絡。

まるで現実のようだ。

この後お互い衣服を身に着けて、拳や武器を向ければ、あっけなく応戦して見せるだろうに、酷い男だ。


「なぁ、仙蔵」

「…」


沸々と込み上がってくる苛立ちに任せて睨んでも文次郎は調子を崩さず、また撫でる手も止めない。
余裕そうじゃないかと胸のうちで毒づく。


「俺はお前だから勃ったんだし、お前が望むなら受け入れたっていいんだぞ?」

「はぁっ!?」


確かにあくまで唐突なところのある男だと認識してはいたが、予想外の言葉に仙蔵は声を荒げた。

一体なんの話だ。

構わず文次郎は一人頷いてそれから微笑んで仙蔵の頬に頬を寄せてくる。
仰け反ろうにも繋いだ手に絡められてどうにもできない。
穏やかな吐息に擽られる。


「なんでも、そのまんま、お前なら、受け入れてやるって事だ」


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