(小平太と滝夜叉丸)
傍らで小平太が眠っている。
起きている時は常に騒がしい小平太だが、寝ている時は静か過ぎる程、静かだ。
ただ、胸を上下させているのを見つめているうちに不思議な気分になって来る。
彼は果たして生きているのだろうか。
心配になって顔を近付けて呼吸を確認したのは滝夜叉丸にとって不可抗力のようなものだった。
勿論、小平太の寝息はすうすうと滝夜叉丸の頬を掠めた。
ほうっと息を吐く。
そこではじめて滝夜叉丸は自分が呼吸を忘れていた事に気が付いた。
眠る小平太が息をしている、たったそれだけの事に安心して仕舞うのは何故だ。
なんでこんなにも彼の事が気になるのか、そこまで考えて止めた。
きっとそんなものに意味はない。
名前を付けるには幼すぎる感情だ。
(…馬鹿らしい)
心の中で吐き捨てて目を閉じた。
もう寝息は聞こえないし上下する胸も見えない。
世界には滝夜叉丸一人だけになって、なのに彼の頭の中は小平太でいっぱいだった。
小平太の生死の事でいっぱいだった。
なにも見えないしなにも聞こえない。
例えこの瞬間、小平太が死んだとしても滝夜叉丸にそれを知る術はないのだ。
(だとしても、私には関係ない)
そう思いながらも滝夜叉丸目を開いていた。
小平太の胸は相変わらず上下に動いていて、顔を近付ければ寝息が睫毛をくすぐった。
しばらくそのままでると、小平太の目がぱちりと開いた。
大きな瞳には、驚いた顔の滝夜叉丸が映っている。
「おっ!おはよう滝夜叉丸!…なにしてるんだ?」
まさか私のこと襲おうとしてたのか?きゃーっ!滝夜叉丸のケダモノ!とわざとらしく照れて見せる小平太には、もうさっきまでの静けさは見えない。
だから、
(貴方が生きてるか確かめていたんです)
そんな事を言える筈がなくて、答える代わりに小平太の唇にこへパペを押し付けた。
小平太の笑い声が滝夜叉丸の耳をくすぐる。
目を閉じても小平太は生きていて滝夜叉丸は確かに安堵していた。