過去その他 | ナノ

※大学パロ

(仙蔵と伊作)


逃げ出す準備は出来ている。
携帯を見つめる送信者はにやり。
携帯を見つめる受信者はにやり。
二人揃ってにやりの確信があるからにやり。

仙蔵は忙しい。
法学部で優秀な成績と冷静沈着だが茶目っ気もある性格と女性にも劣らぬ美しい容姿で人気者なのだ。
毎日、イベントのお誘いで忙しい。

伊作は忙しい。
医学部で優秀な成績と優しくて温和な性格と小動物のような可愛らしい雰囲気で人気者なのだ。
毎日、イベントのお誘いで忙しい。

だから二人が逃げ出すならば講義中。

駐車場で落ち合って仙蔵の黒い車に乗り込み仙蔵が笑う。


「海にでも行こうか」

「いいね」


生温い風が吹いている。
ばばばと音と振動を出すエンジンで後部座席に放られた仙蔵と伊作の手提げとリュックサックが揺れている。

二人が二人でいる時は講義の話も友達の話もそんなにしない。

海の近くまで来るとにやりはくすくすに変わった。

浜の広い海は金色だ。
午後の光が溶け出して甘くて清々しい。

仙蔵が鞄からサイダーのペットボトルを取り出して伊作に投げた。
キャッチ。

裸足でペタペタ歩いて、二人は並んだ。
今日の気温は高くて、湿度が高い。

二人は同時に蓋を捻った。
ぷしゅーっ。


「うわっ!」

「やっぱり」


白い泡が溢れる。
波の泡より細かくて漂白したような白い色。

収まると仙蔵はまた激しくペットボトルを振った。
そして開けて水柱を上げさせて笑う。
伊作も真似をする。
二本の甘い水柱が上がって泡になって二人の手を汚す。

生温い風が吹いている。

二人には格好よくて優しい恋人がいて優しくて面白い友人が沢山いる。
そんな世界があってそんな世界を愛している。
愛するために憎むことは必要なくて、ただ優しく微笑んでいたいのだ。

じりじり、日が傾いていく。
風が冷えていく。


「帰るか」

「そうだね」


車に乗り込んで二人は歌った。
楽しく愉快な歌を、大きな声でばらばらと。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -