(文次郎と仙蔵と小平太)
「仙蔵!」
名を呼ばれ振り返ると文次郎が手招きをしていた。
文次郎の傍らに控えている小平太も文次郎と同様に手招きをする。
笑顔で手招きをする文次郎と小平太に仙蔵は目を細めた。
「小平太の奴が、美味い茶を貰ったんだってよ。だから今から茶の時間にしようと思ってるんだが」
仙蔵もどうだ?と笑う文次郎に仙蔵は細めた目を伏せる。
「私は遠慮させて貰う」
「そう言うなよ」
「そうそう!三人で茶の時間にしよう!」
両側から挟まれて仙蔵は眉をひそめて口をひきつらせる。
渋々頷くと、二人の顔が日を射したようにぱぁっと輝く。
「なにがそんなに嬉しいんだ」
「最近、城やら合戦場やらでの実習のせいで三人で一緒にいることなんて出来なかっただろ」
「うんうん!…さてと、そうと決まれば行くぞ!いけいけどんどーん!」
それを言うなら伊作たちだって、と言い掛けるも文次郎に腕を引かれ、小平太に背を押されて仕舞いあれよあれよという間に仙蔵は茶の間に着き座らされていていた。
よく蒸らされた茶葉から香りが漂い、部屋中が甘い匂いで充満するさ、六年生で誰が好きだ?」
げほっ!と仙蔵がむせる。
大丈夫か!?と小平太が聞くと仙蔵は口元を手拭いで拭いながら、問題ないと返した。
「で、誰が好きなんだ?」
「聞くな」
「なんでだ?」
「いいから、聞くな」
「なんで?」
「…き、聞くな」
頬を真っ赤に染めて仙蔵はうつ向く。
「答えないなら、私が代わりに答えてやろうか?」
「え?」
「お前は六年生の中で、…文次郎が好き、だろう?」
しかもその好きは恋心だ、と続ける。
仙蔵はうつ向く顔を上げて目を大きく見開いた。
「…何故、わかるんだ?」
「仙蔵の顔を見てればわかるさ」
「私は一体どんな顔をしていた?」
「文次郎を好いている顔をしていた」
「なんだそれ?」
そう言って仙蔵は笑った。
そりゃ、わかるさ。
小平太は仙蔵の笑った顔も泣いた顔も怒った顔も。
初めて虚勢を張った時も、感情を抑える術を身に付けた時も、ずっと出来るだけ傍で見て来た。これからも卒業まで見て行くのだろう、と思う。
内に秘めた想いを抱えたまま。
「あ、文次郎だ」
言って微笑む仙蔵をみて小平太の胸はちくりと傷んだ。
「本当だ。案外、早かったな」
そしてまた「好き」を自分の中に飲み込んだ。