※女装ねた
(義丸と仙蔵)
第三協栄丸に町に酒を買いに行けと言われた義丸は町で三人の男たちに絡まれている一人の女を見掛け立ち止まった。
どうやら三人の男たちは女をナンパしているようだが女は非常に迷惑そう眉をひそめ首を左右に振って嫌がっている。
女は美しかった。
絹のように艶やかな髪に雪のように白い肌、淑やかに下がった眉に切れの長い目、薄紅色の唇、そして小柄で華奢な体つき、同性だろうが異性だろうが誰がどう見ても女は美しかった。
「なぁ、お嬢さん。俺たちとお茶しようよ」
「お嬢さんは今、一人なんだろう?」
「ならいいじゃないか」
男たちは口々に言った。
女は迷惑そうに眉をひそめ首を左右に振るばかり。
すると、女の態度に痺れを切らしたのか男たちの内の一人が強引に女の細い手首を掴んだ。
女はか弱く小さな悲鳴を上げる。
瞬間、義丸は止めていた足で地面を強く蹴り女の手首を掴む男の前に立ち男の手首を強く、強く掴み無理矢理、女の手首から手を離させた。
「嫌がってんだからやめてやれよ」
睨みをきかせて怒鳴るように義丸が言うと男たちは情けない悲鳴を上げながら逃げて行った。
義丸は視線を男たちからそらし女に向けた。
女はにっこりと微笑む。
「有り難うございます、…義丸さん」
「…え?…な、なんで俺の名前を知ってるんだ?」
目を見開きぱちぱちと瞬きを繰り返す。
こんな美人に会っていれば忘れる筈はないだろうに、義丸は女を思い出せないでいる。
暫くの間、ぱちぱちと瞬きを繰り返していると女は口元に手を宛て「ふふっ」と小さく笑った。
「まだ、わかりませんか?」
私です。忍術学園六年生の立花 仙蔵ですと言って女、否、仙蔵は再びにっこりと微笑んだ。
「え?えええ?立花さん?」
「はい」
同様する義丸を尻目に仙蔵はうなずいた。
「実は女装だと気付かれないように簪を買って来ると言う女装のテスト中でして」
「ほうほう」
「本来ならばあのような輩、私一人でも追い払えるのですが、女装がばれるとテストで不合格をいただく羽目になってしまいますから、なにも出来なかったんです」
「成る程」
「なのでとても助かりました。有り難うございます」
「否、礼には及びません。それより簪は買えたんですか」
「はい」
「なら、忍術学園までお供しますよ」
またあんな輩に捕まったら大変でしょう?言って義丸は仙蔵に手を差し出す。
そんなのは口実に過ぎない。
本当はもっと仙蔵を見ていたかった、ただ、それだけの事。
仙蔵は戸惑ったものの義丸の言葉に甘えて差し出された手に自身の手をそっと重ねた。
お頭には悪いが酒はもう少し我慢して貰おう。