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※年齢操作
(一年生/六年生→卒業後)

(喜三太と仙蔵)


夜風が火照った頬に心地好い。
目を閉じて鼻から空気を吸い込むと夜の香りがする。
肌寒さを感じる間もなく宿に着く。
とんとんと小刻みのリズムを奏でながら足を急がせると今夜の寝床はすぐそこだ。
布団に潜り込む幸福を考えながら部屋の戸を開けて踏み出した大きな一歩は空中でぴたりと止まった。


「随分と遅いお帰りだな」

「あ、えっと、…ただいま」


不自然な姿勢のまま固まった喜三太を壁に体を預けている仙蔵が見やる。
喜三太は慌てて姿勢を正した。

喜三太が一年生から二年生に上がる年に忍術学園を卒業した仙蔵はフリーの忍者となり忍者界に名を馳せていた。
そんな仙蔵のようになりたいと思った喜三太は忍術学園を卒業の後、自身もフリーの忍者となり日々仕事をこなしていた。
そんなある日、町で偶然にも仙蔵との再会を果たした。
喜三太と再会した仙蔵は忍術学園に通っていた頃に恋仲であった潮江 文次郎を探して旅をしてた。
文次郎の生死すらわからん故にその旅は宛のないものであったが、喜三太はその旅に同行させてくれと頼み込んだ。

仙蔵ははじめは断ったものの最終的には喜三太の同行を許した。


「すみません、立花先輩。少しばかり寄り道をしていたもので」

「顔を真っ赤にして「少しばかり」だと?」

「あの、それはですね」


喜三太が言い訳をするも仙蔵は首を振ってため息を吐いた。


「まぁ、どうだっていいがな」


うつ向くとさらさらの長髪がさらりと揺れた。


「そろそろ寝よう」


壁から背を離すと長く温められていたのだろうそこが小さく軋む。
横を通り過ぎる仙蔵の足取りはとても弱々しいもので喜三太は思わず呼び止める。


「あ、あの、立花先輩」

「…喜三太。夜遊びはいいが、出発が遅れるのなら置いて行くぞ。お前は腕はいいがその夜遊び癖と女遊び癖は敵わん」

「いい男は何処に行ってもいい女と縁があるんですよ」


仙蔵の足が止まる。
ゆっくり振り返ったその表情は呆れ果てていた。
喜三太は呆れ顔の仙蔵の鼻先へと折り畳まれたメモを突き出す。


「…なんだ?」

「立花先輩のいい男もあっちこちでいい女と縁があるだろうって事ですよ」


なにが言いたい。
睨み付けてからメモを受け取る。
開いた中にある走り書きを見て仙蔵は目を丸くした。
喜三太は満足げに腕を組む。


「居酒屋の女の子が、最近、立ち寄った目の下に隈のあるいい男を覚えていたみたいで、次はそこに行くって言っていたそうです。…よかったですね、立花先輩、」


少なくともまだ潮江先輩は生きています。僕たちと同じ夜空の下にいるんですよ、とそこまでで喜三太は言葉を切る。
どうやら仙蔵の耳には届いない様だ。
走り書きの紙切れをそっと胸元に抱き込んで、愛おしそうに文次郎の名前を呟く。

その姿に喜三太は組んだ腕を解いて腰に置くき息を一つ吐く。

すると仙蔵は弾かれたように顔を上げそして微笑みを浮かべる。


「…有り難う」

「はい」

「有り難うな、喜三太」

「はい」


微笑む仙蔵につられて喜三太も微笑んだ。


「さてと、明日も早くに出発しますからね。そろそろ寝ましょうか」


言って、喜三太は横をすり抜ける。
仙蔵はその後ろ姿を見つめていた。


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