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(三郎と仙蔵)


「ほんっとーに」


三郎はどすんと音を立ててひっくり返った。
額には玉のような汗。

目の前に立つのは涼しげな表情の仙蔵だった。

月に一度、六年生と五年生で行われる手合わせ。
勝ったのは仙蔵。
負けたのは三郎。


「本当に全力を出すんですね、立花先輩は」


情けない声を出しながらも三郎は上半身だけを起こした。

しかも普段の行いの差なのだろうか、三郎を相手にする時の仙蔵は、他の五年生を相手にする時よりも冴えた動きを見せる。
仙蔵はふっと息を吐いた。


「お前は人を騙す事が得意だろう」


唐突な言葉。

いつもならやれ背中が甘いだの距離の取り方がなってないだの言うはずが。
仙蔵の視線が和らいだ。


「計算して、取り繕って、余裕でいられる。けれど激しい戦闘の中ではその余裕を保っていられないようだ」


なにが言いたいのだろうと言葉を待つ。
仙蔵はとうとう微笑んだ。


「お前から余裕を奪えるのは私との戦闘だけだと思うと楽しくてな」


仙蔵の言葉に言葉を、声をなくした三郎はこの人、やっぱりSだと思いながら頭をかいた。


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