(涼野と南雲)
俺って我が儘だよなと言って南雲は笑った。
困ったように笑った。
「あんたなんか好きじゃないって言う癖に、あんたからは好きって言われたいんだ」
そう言ってまた南雲は困ったように笑う。
その目は涼野を捕らえているようであり、涼野が見えないようでもあった。
「…晴矢」
「なぁ、風介。あんたは俺に好きだと言われたいか?」
「…」
「黙るなよ」
「すまない。そうだな。私は別に好きだと言ってくれなくてもいいよ」
え?と南雲は驚いたような、喜んだような、それでいて傷付いたような声を上げ、今度は確実にその目で涼野を捕らえた。
瞬間、目頭が熱を帯びた気がしたが、南雲はそんな事、どうでもよかった。
その目はただ、涼野を捕らえている。
捕らえて離さない。
「あ、否、別に君が好きじゃないからとかそんなんではないぞ。ただ、その、…私を好きだと言う事で無理をして欲しくないと言うか、…」
きょろきょろと視線を泳がせながら言う涼野は南雲のよく知る涼野その人でありながら、まるで知らない人のよう。
更に熱を帯びる南雲の目頭。
絶えられなくなり、南雲は目を伏せる。
「だから、…その、…頼む、泣かないでくれ。」
晴矢を泣かせたくないんだと続けて涼野は南雲の伏せられた目に口付けた。
南雲は涼野の言葉と行動に驚き目を見開く。
目を開くと南雲の視界は滲んでいた。
滲んではいたが、なぜか涼野だけは鮮明に映る。
その訳はもう、南雲の中にあった。
「…悪い、変な事、聞いて」
「気にするな」
「あのさ、風介、…好き」
「…っ!今なんて、」
「もう、いわねぇ」
「ん、わかった。…有り難う」
「ふん」
滲んでいた南雲の視界はいつの間にか鮮明さを取り戻していた。