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(豪炎寺と吹雪)


今日はバレンタインデイ。
男の子も女の子も皆が皆、どきどきときめき、そわそわする日。

それはここ、雷門中学校でも言える事であり、中学の門を潜れば男の子も女の子も皆、どきどきのときめきを隠せずにそわそわしていた。
そんな光景の中、一人、豪炎寺はため息を漏らした。

両手には抱えきれない量のバレンタインの贈り物が入った紙袋を持っている。

正直、豪炎寺は欲しくもないものを欲しくもない相手から貰うのはしゃくじゃない。
ただ単にバレンタインデイに気持ちを贈りたいからと言う女の子からのチョコレイトですらサッカー一筋の豪炎寺からしたら重いのにホワイトデイのお返しを催促するかのような女の子からのチョコレイトは豪炎寺には重た過ぎて敵わないのだ。

勿論、可愛い妹、夕香からのチョコレイトなら流石の豪炎寺も喜んで受けとるのだが、どうせなら、…。


「うわぁ、モテモテだね、豪炎寺くん」


後ろから掛けられた声に振り替えればそこには自分と同じくらい、否、それ以上の量のバレンタインの贈り物が入ったダンボールを抱える吹雪の姿があった。

お前の方がモテモテじゃないかと言ってやりたかったが、ダンボール一杯のバレンタインの贈り物を抱える吹雪への複雑な気持ちからその言葉は声にならない。

暫く、押し黙っていると、なにかを思い出したかの様に吹雪が口を開いた。


「あ、そうだ」


そう言うと抱えていたダンボールをよいしょと言う掛け声と共に足元に置き、自身のバッグの中をごそごそと漁り出した。
豪炎寺はそんな吹雪の行動に首をかしげるも尋ねる事はせず、吹雪の次の行動を待った。


「あ、あったあった!豪炎寺くん、これ、あげる!」


豪炎寺の前に吹雪が差し出したのは可愛らしいラッピングが施されたバレンタインの贈り物だった。


「え、…あ、…これはまさか、…お前から、か?」


どきどきとしながら豪炎寺が尋ねると吹雪はけろっとした表情でううんと言って首を左右に振る。


「さっき、豪炎寺くんを探してた女の子に渡しといてって頼まれたやつ」

「…なんだ、…そう、だよな」

「?…あ、もうこんな時間だ!僕、もう行くね!」


さっきまでのどきどきが嘘みたいに冷めた豪炎寺を他所にそれじゃあ、またね!と付け足してダンボール片手に手を振りながら吹雪はその場を後にした。


「あぁ、またな」


吹雪につられ、豪炎寺は手を振り替えした。
そして、冷めた心のまま吹雪から渡されたバレンタインの贈り物を持っていた紙袋に入れようとするや否や、贈り物の差出人の名前に目が止まった。

そこに綺麗な文字で書かれた名前に豪炎寺は口角を上げた。
今の豪炎寺は笑ったと言うよりはにやけたと言う方が正しいかも知れない。


「さっき女の子に渡すように頼まれただと、…この嘘つきめ」


と、豪炎寺はバレンタインの贈り物に書かれた名前に向かって呟いた。


(今年は俺の人生史上、最高のバレンタインだ)


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