「ワイミーズ時代」-1P

小説「ワイミーズ時代」

「Lが!」

「Lが来るって!」

他の子供たちがはしゃぎ声を上げて外へと駆け出した後、独り居間に残ったニアを見つけたメロは、見ぬ振りで通り過ぎるかと一瞬躊躇(マヨ)ったが、足を止めて二、三歩引き返すと彼に声をかけた

「おい、ニア。聞いたか?Lが来るってよ」

無愛想な調子で投げかけると、絨毯に座り込んでいた相手が首を捩って振り向いた

「私はあの急な丘を登り切れません。あなたは構わずに、行って来てください」

淡々とクールに言い放ったニアは喘息持ちで体が弱く、ほんの些細な外因が引き金となって発作が悪さをした

だからLがやって来る通りを見渡せる丘の頂上に続く長さ数百メートルの斜面でも、自力で登ることが困難だった

「…… あっそ」

メロは無関心を装うニアの態度に、望み通りこのまま放って行ってやろうかと考えた

だが、会話半ばで視線を外した相手の真意はわかっていた

メロはガラス窓の向こうに響く、先発った子供たちの遠ざかる声に耳を傾けながら一息吐くと、ニアの元へ行き、背を向けるようにしてすぐ側にしゃがみ込んだ

「ほら」
「! メロ…私を背負ってあの丘を登るつもりですか?」
「いいから早くしろって。出迎えに行きたいんだろう?そこのカーディガンを羽織れ。余計な意地を張るな」

メロはためらいがちなニアを背負うと施設を飛び出し、丘を一目散に駆け上がった

活発で俊敏だとはいえ持久力はそうある方ではなかったから、メロは途中、息を切らせて辛そうに何度か立ち止まった

その度にニアは下ろしてくれて構わないと唱えたが、意地を張るのはニアに同じく、メロの性分でもあった

うるさい、黙れ、と反発を吐きながら歩き続け、とうとうメロは最後までニアを背負い、丘の天辺に辿り着いた

「Lーっ!」

頂上に着くと既に憧れの姿はそこにあって、先に着いた子供たちは彼を取り囲み、歓喜していた

メロは息を切らしながら額の汗を拭い、背中のニアを抱え直した

「見ろよ。Lだ、あそこに居る」

メロの言葉に、ニアは彼の背中から伏せ目がちな顔を覗かせてLを見た

だがLが振り向き視線が合致すると、まるで恐怖に遭遇したように表情を強張らせ、ニアは慌ててメロの背にしがみ付き、隠れた

「ア?何だよ、会いたかった癖に」

メロはニアの緊張を察して、ぼそりと吐き捨てた

Lは距離を置いて佇(タタズ)む二人の存在を認めると、優しく微かに微笑んだ

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