十二月二十五日の朝もずっと
朝。目が覚めた。
同時に、違和感。
「ん……?」
隣を見ればリヴァイさんがいて、私は静かに驚いた。
毎朝いつも私より早く起きて訓練をするためいなくなっているのに、まだここにいるとは珍しい。
もちろん、たまにはそんな日もある。その時はあまり見ないで欲しい私の寝顔を眺めていたり、私の長い髪をもてあそんでいることが多かった。
ところがなんと、今日はかなり珍しいことに――まだ眠っている。
「…………」
かなり珍しいどころか、こんなことは初めてだ。
私は少し舞い上がってから、心配になった。
なぜならリヴァイさんがうなされていたからだ。眉も寄せて苦しんでいるようだった。
一体どんな夢を見ているのだろう。
これは起こした方が良いように思えて、軽く肩へ触れる。
「起きて下さい、朝ですよ、リヴァイさん」
軽く揺すってもまだ瞳は開かない。
信じられない、今朝は一体どうしてしまったのだろうか。
「リヴァイさん、リヴァイさん」
いよいよ心配になって何度も呼びかけると、
「リーベ……」
私の名前を呼ばれた。
「はい、リーベですよ」
返事をしても、それ以上の言葉はなかった。寝言らしい。
しかしうなされることはなくなったので私はほっとする。時計を確認すれば、まだまだ時間に余裕があった。
普通に眠っているのならもう少しこのまま横になっていてもらうべきだろう。彼も人間なのだから、可能な時はたくさん休息しておくべきだ。そう考えた私はベッドからそっと離れて身支度を整え、台所へ向かった。
味見をして、私はうなずいた。
「よし。これで完璧――わっ!?」
心臓が痛いくらいに驚いた。扉を開けるにしては凄まじい音がしたからだ。
思わずそばにあったフライパンを手にして防衛すれば、そこにいたのはリヴァイさんだった。
「ど、どどどうしたんですか? 巨人が家を壊しに来たかと思いましたよ? あああ扉が……」
フライパンを元あった場所へ戻し、リヴァイさんの力で壊れた扉を嘆いていると、
「リーベ、お前……何をしている……?」
寝起きのかすれた声でリヴァイさんが言った。慌てて起きたらしく衣服が乱れているし、目も据わっていた。
ただならぬ様子に私は首を傾げる。
「何って……朝食作りですけれど」
「起きたらいねえから、お前……。いつもはまだ寝ている時間だろうが」
私はコップへ水を注ぎ、それをリヴァイさんへ渡しながら説明する。
「そうですね、普段ならまだ寝ています。でも今日は十二月二十五日じゃないですか」
「あ? それがどうした」
「リヴァイさんの誕生日ですよ?」
私はテーブルの上を両手で示した。
「じゃじゃーん! 今日はいつもより少し豪勢な朝食にしてみました! お誕生日おめでとうございます!」
昨日から材料を揃えて下拵えをしたりこっそり準備をした甲斐があった。我ながらよく出来ている。何事も計画性というものは大切だとしみじみ思った。
「お昼は調査兵団の皆様と、夜は団長様やハンジさんたちとお食事されると思うので、朝は私とお祝いを――ひゃっ?」
話していると突然、後ろから抱き締められた。
「あの、リヴァイさん……?」
「頼みがある」
「ええと……何でしょう……」
耳元で囁くような声に私は戸惑うことしか出来ない。
「来年は――もしもお前が目覚めた時、まだ俺が眠っていたら」
「……は、い」
「いつだって、どんな朝も、俺がお前より長く眠っていたら」
腕にぎゅっと力が込められて、少し痛いくらいだった。
「一人で勝手に起きるな。――いなくなるな」
「……え?」
「俺はお前を置いて目覚めるばかりでそれを強いることはおかしいかもしれねえ。……だが、頼む」
「…………」
時々、不思議になる。
この人はいつも私がいなくなることを恐れているように思えて。
一体何がこの人を、こんな風に思わせているのか――私はわからない。
ただそれでも、どうしてですかと訊ねることはしない方が良い気がしたから、
「――はい、わかりました」
懇願に対して、私は頷いて応じる。
「ずっとあなたのそばにいますよ」
それから素早く振り返り、リヴァイさんを抱きしめ返した。
すると優しく髪を撫でられて、
「ありがとう。――この朝食も、な」
素直な感謝の言葉に私は嬉しくなって、背伸びをして愛しい人へ唇を寄せた。
(2014/12/25)
-----兵長Happy Birthday 2014!!