自由倉庫 Freiheit ::東方訓練兵団とある班長の意識を失う三十秒前の話(翼のサクリファイス) ※夢主はデフォ名です。 ※彼女が訓練兵時代の話→こちら ※兵長などキャラクターは出ません。 最悪の状況だ。最悪の中でも最低のレベル。僕が気を失うのもそう遠くない。 「班長」 呼ばれて振り返れば、リーベがいた。片手には単発式の猟銃。その背中にも一挺ある。 空いた手には箱に入った弾薬。通常のものとは用途の異なるそれを装填していた。 「何? 僕あと一分以内に気を失うと思うから手短に」 「手伝って」 「だから言っただろ。あと一分足らずで僕は君らのお荷物だ。それもすぐに捨てるべきの」 訓練兵団で上位に入って憲兵になりたかった。でも、無理だとわかった。僕はこういう荒事には向いてない。それも向いていないの最上級。 さっさと辞めるべきだとわかっているのにそれが出来ないのは意地でしかない。せめて卒業試験まで終えて「兵士にもなれたけれど稼業を継ぐことにした」という体面は保ちたかった。 でも、ここで死ぬなら無意味なことだ。 遠退く意識の中でため息をつけば、リーベが言った。 「班長は荷物にならない、皆の役に立つ人材だよ」 「よくそんなことが言えるな」 「じゃあそれを今から証明しない?」 「良い話だけど、そんな旨い話が普通ある? デメリットは?」 「班長は気絶したままもう二度と目覚めない」 「…………」 一度、深呼吸をする。意識を失うまで三十秒は伸ばしたい。 「……僕は別に誰の足を引っ張っても気にしないし、役にたたない人間のままでいい」 本心だ。どうしようもない、僕の本音。自分のことしか考えていない。 「でも、このまま気絶して、どうせ死ぬなら――リーベの好きにしていいよ、僕のこと。どうすればいいの」 そろそろ限界だけれど、気絶する場所くらいなら選べる。 「獲物の手前で気絶して」 「は?」 「私が撃つまでの時間を稼ぐ囮になってくれない?」 囮には動かれない方がいいんだよ、そう言った彼女が見せたのは天使のような悪魔の微笑みだった。 ----- 1000%日の目を見ることがない《伝説の東方訓練兵団》事件簿の数々の一つの序章。最近ちょこっと番外編『断章の羽根』で語られるようになったリーベの班長が目覚めるのは全てが終わったその後。 back ×
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