自由倉庫 Freiheit ::新兵一年目編S【完結】 「身体の調子は?」 とある昼下がり。エルヴィン団長の執務室に呼ばれた。物凄く緊張する。 「まだ医療班から許可が降りないため、次の壁外調査は不参加になりそうです」 「今は治療に専念するといい。――入団して三ヶ月になるが、班の様子は? 馴染めているかな?」 「それは……」 団長と面会出来たらネス班長の班に変えてもらおうと話すつもりだった。でも、止めておこうと思う。 私はこの三ヶ月を振り返る。 とにかく必死だった。だから周りを見ていなかった。見ようともしていなかった。余裕がなかった。 いきなり分隊長の班へ配属されて周りと分離した寂しさや不安を必死になることで打ち消していた。必死になるのは悪くないけれど、必死になるだけじゃ駄目なのに。 焦っても仕方ない。もう少し余裕を持とう。 落ち着いて周りにいる人たちと向き合おう。 「問題ありません」 今は班に相応しくなくても、これから相応しくなれるように。 未来の言葉を前借りして、私はそう答えることにしておいた。 口を閉じれば、団長は納得したように頷いて下さった。多分全部お見通しだと思う。 「なるほど。よくわかった。――ところでこの紅茶は君が淹れたのか」 「は、はい」 口に合わなかったのかと緊張すれば、団長が表情を緩めた。 「美味しいよ」 「ありがとうございますっ」 そこで団長がカップを置いた。 「君はリヴァイを知っているかな」 「ええ、もちろん」 「あいつは紅茶が好きでね。この味なら間違いなく満足するだろう。――今から彼の分も運んでやってくれないか」 「わかりました」 部屋を出る直前、最後に立ち止まる。 「団長」 「何だ」 「私、頑張りますね」 すると団長は瞬きをしてから微笑んで、 「期待しているよ」 団長室を辞してから、給湯室へもう一度足を運ぶ。途中でなぜ新兵の自分が分隊長の班へ配属されたのか団長に聞きそびれたことを思い出したけれど、 「ま、いいか」 気にしないことにした。 茶器一式を用意し、準備も終えて時間を計りながら丁寧に紅茶を淹れる。お盆へカップを乗せて通路を歩いて目的地に着いた。 リヴァイ兵士長とお会いするのは新兵勧誘式以来だ。あれからずっと、まともに見てさえいない。 あの人と会うためにも調査兵になったのに、すっかり忘れていた。 そういえばあの時は私の顔も見せていないし、そもそも兵長はそんなこと覚えてないと思う。よし、じゃあここからスタートだ。第一印象は重要だから大切にしないと。 入団して三ヶ月も経ってしまったけれど、今から何かを始めてもきっとまだ遅くない。――だって、生きているんだから。 「…………」 深呼吸してから、私は兵士長室の扉をノックした。 <新兵一年目編・完> 2014/08/10-2016/08/20 ----- 新兵一年目編連載、二年間ありがとうございました!お疲れ様でした! 目指していたラストシーンまでたどり着けたことに満足しております!二年くらいで完結の目標も達成! 初壁外を見守る誰かとか寝てる間に手当てしてくれた誰かとか早朝自主訓練を手伝う誰かとか休憩のために紅茶淹れてあげる誰かとか、こっそり裏側で暗躍するにも程がある誰かは結局誰だったんだよって感じですが、それはもちろん皆さんの心の中にいるあの人に違いないでしょう! この人目線で新兵一年目編も間違いなく楽しいと思います私が。 そして原作沿い長編の方は今月末で四年目に突入です!まさかここまで続くとは……当時考えられない状況ですよ今。今後もまだお付き合いして下さる方がおられるなら女神様です。もしよろしければもう少し見守ってやって下さい。 さて、以前blogでお知らせした通り、今回の完結と同時に倉庫は閉幕となります。かなり好き勝手やらせて頂いたのに(例えば新兵一年目編なのにあの人が一向に出て来ないとか)、楽しんで下さる方がいて大変有り難く、幸せでした。感想頂けたりした時は物凄ーく嬉しかったです。 お付き合い下さった皆様、ありがとうございました。今後も本サイトliebeともずくをよろしくお願いします。 back ×
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