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::新兵一年目編R

 振り返って、私は思わず身構える。自分の顔が強張るのがわかった。

『あんたの方が死ねば良かったのよ!』

 あの女性だった。

 よみがえる胸の痛みと頬を叩かれた感覚に後ずされば、彼女はもう近づいては来なかった。この距離では会話が精一杯だ。

「何か……ご用でしょうか」

 自分の声がか細くて、震えているのがわかった。情けないくらいに平静を保てない。
 すると彼女は困ったように明後日の方向を見やる。

「実は、その……自己満足だってわかっているけど伝えたくて」
「…………」

 一体何を?

 首を傾げていると彼女はお腹に手を当てた。いつくしむような動きだった。

「子供がね、いるのよ」
「…………」

 きっと、死んでしまった人との子なのだろう。

「……そうですか」

 こんな時に相応しい言葉が見つからなくて、そんな返答しか出来なかった。

「だから、あなたは生きてね」

 その言葉の意味がわからなくて、私はまた首を傾げてしまう。

「……私が死んだ方が良かったのに?」
「死んでいい命はないってわかったの」

 謝らなくちゃと彼女は言って、私は黙っていた。

『謝るくらいなら最初からやらなきゃいいのに』

 ナナバさんの言葉を思い出す。

「…………」

 今ならわかる気がする。

 後で謝りたくなるようなことでも、その時はそうしなければどうしようもなかったのだ。私も、彼女も。

 彼女が続けた。

「父親がいないんじゃ、この子は幸せじゃないかもしれない。――でも、私は産みたくて」

 周りには反対されたけれど決めたのだと彼女は言った。迷いのない、すっきりとした顔だった。

 その様子を見て私は口を開く。

「……もしも私が、あなたの子供なら幸せです」

 やっと、少しだけ微笑むことが出来た。

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次回完結!
 

2016.07.13 (Wed) 18:17
新兵一年目編(長編設定)|comment(0)

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