自由倉庫
Freiheit


::新兵一年目編I

 痛い。

 痛い痛い痛い。

 どうやって部屋を出たかわからない。

 気づけば誰もいない廊下をさまよっていた。

 まだ昼を過ぎた頃だ。仕事も訓練も残っている。わかっていても、身体が言うことを聞かなかった。
 怠けて無断で休むなんて訓練兵時代にもしたことがない。でも、もう無理だ。もう駄目だ。

 重い足で、それでも必死になって逃げるように人気のない場所へ向かう。

 やがて着いたのは地下書庫の奥。そこへ小さくなってうずくまる。

「ぅ…………」

 つらくてたまらない。
 苦しくてたまらない。

 どうすればいいのかわからない。
 だからどうすることも出来ない。

 耐えることしか。
 堪えることしか。

 そうするしか、なかった。




 いつの間にか眠っていたらしい。時間を確認すれば夕刻になっていた。

 喉が痛む。こんな埃っぽい場所で寝たから無理もない。

 お昼も食べていないから、ひどくお腹が空いているのがわかる。

 でも、全部どうでもいい。
 この空虚な心に比べれば。

「…………」

 叩かれたまま冷やさずにいたので、そのことを後悔しながら腫れているだろう頬へ触れると、

「――え?」

 湿布が綺麗に貼ってあった。

「あれ? 何で?」

 ここへ来るまでに無意識に医務室へ寄って自分で貼った?

 まさか、そんなはずはない。

「だ……」

 私は呟く。

「誰?」

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クイズ!こっそり手当てしてくれたのは誰でしょう!
というわけで『何事も最初からうまくいくはずがない』をモットーにした新兵一年目編前半戦お疲れ様でした!気が向いた時に書いていたら約一年かかりましたね……。
後半戦はちょっとずつ明るく楽しくなるといいなと予定していますので残り十話、気が向かれたらよろしくお願いしますっ。
 

2015.07.09 (Thu) 20:15
新兵一年目編(長編設定)|comment(0)

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