自由倉庫 Freiheit ::新兵一年目編G 壁外調査では新兵の大半が命を落とすと言われている中で何とか生き残れた。 死ぬつもりはなかったけれど、それでもよく生きて帰れたと思う。 でも、それで終わりではなかった。 「――俺は止めたぞ。何度もな。お前には耳がついてねえのか? 飾りなのか? 闇雲に馬を飛ばしてはぐれるなんざ、どういうつもりだったんだ?」 本部へ帰還するなりお説教タイムが始まったのだ。 「……すみません」 「お前が勝手に突っ走ったもんだからそりゃあ俺たちは慌てたし大変だったんだぜ? わかってるか? わかってねえだろ?」 「……反省してます」 反省はしている。本当だ。でも、ゲルガーさんの言い方を聞いていると反省したくなくなるのが不思議だった。 それに今はとにかく早く眠りたい。身体よりも心が休息を望んでいた。 ため息が聞こえた。トーマさんのものだ。 「ゲルガー、もう良いだろう。巨人に追われて馬の速度を落とすことなんか普通は出来ない。初めての壁外で緊張もしていただろうし」 「お前は甘いヤツだな、トーマ」 「あの後、この子は信煙弾を頼りに自力で合流したんだ。新兵の仕事は生きて帰ることでもある。充分じゃないか」 ゲルガーさんが鼻を鳴らした。 「ここは分隊長の班だ。配属されたからには新兵だろうがチビだろうが求められる以上の力を発揮しねえと用なしなんだよ!」 そう仰るご自分はどうなのか――私が余計なことを考えていると、 「何だその目は」 見抜かれた。目は口ほどにものを言ってしまった。 「……いいえ、何も」 とはいえ正直に言えるはずもないので濁せば、 「こいつ……!」 胸ぐらをつかもうと伸ばされたゲルガーさんの腕。それを反射的に仰け反って避けた。重心が後ろになった体勢を利用してブーツの裏でゲルガーさんの顎を蹴り上げる。 「あがっ!」 呻き声で我に返った。 目の前には、倒れて動かなくなったゲルガーさん。呆然としているトーマさん。 深く考える前に身体が動いた事実に私は血の気が引いた。 ああ。やってしまった。 ----- 一応無事帰還。 そして今月は続けてもう一話! back ×
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