自由倉庫 Freiheit ::新兵一年目編F ※流血・残酷描写注意 どこかで信煙弾が上がらないかと空を見ながら馬で進んでいると――遭遇した。 「…………」 巨人ではない。だが巨人によって壊滅した班に。 「…………」 凄惨、の言葉に尽きる状況だった。 人間の身体の中身がすべてぶちまけられているのではないかと思えるような光景が広がっていた。血や、千切れた身体の一部、内臓、身体が二分されたものや、頭部のみが残された、そんなもの。目を背けたいのに身体どころか視線も自由に動かない。濃い血の臭いに呼吸がうまく出来なくなる。 「…………」 これが壁外調査。 強大な力。蹂躙するものたち。 冷たい風が吹いた。冬の夜のような、違う、今は駄目だ、思い出すな。 自分に言い聞かせても無駄だった。冷静さを失って、叫びだしてしまいそうになって――視界の端で何かが動いた気配に、はっと視線を向ける。 それは死んでいると思った一人の兵士だった。四肢がほとんど食いちぎられていて、その身は血に沈んでいる。まだ生きていることが不思議で、惨すぎて見ていられない。 「…………だ、れか……」 か細い声がした。まだ話せることに驚愕すれば目が合った。 誰かは知らない。この一ヶ月、ミケ班以外に知り合った人はいないから。 「殺して、くれ……死、なせて、く……」 「あ、あの……」 ここから逃げたかった。でも、その瞳に射抜かれて動けない。 「たのむ……くるし、い、苦しいんだ……お、れを、殺せ……」 「……待って、私、私は――」 「はや、く……ころ、せっ……おわらせて、くれ……」 どう見ても致命傷で、もう助けられない。いずれこの人は死んでしまう。 ただ、早く苦しみの時間を終わらせてくれと乞うているのだ。 馬を下りれば自分が震えていることに気づく。立っていられるのが不思議だ。 「たのむ……!」 懇願に耳を塞ぎたい。 誰か、と口を開いても声にならない。ここには私しかいない。 あまりに永い一瞬が過ぎて、 「っ」 逡巡を断ち切った私はブレードを抜き、兵士の首へ突き立てる。 声は聞こえなくなった。 もう何も、聞こえない。 ブレードは介錯の血に濡れて、巨人の血と異なり蒸発することはない。 「私……何やってるんだろう……」 どうして。 こんな。 「私は――」 うつむいていると、ふいに視線を感じた。素早く木々へ目を向けたが、誰もいない。 「…………気のせいか」 いつの間にか血に染まっていたマントを脱いだ。少し考えて、息絶えた兵士の身体へそっと掛ける。顔だけしか見えなくなって、眠っているように見えた。そのことに少しだけ救われる。 「さよなら」 馬を指笛で呼び寄せて、私は再び合流を目指した。 back ×
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