自由倉庫 Freiheit ::新兵一年目編E 入団して一ヶ月、ついにこの日がやって来た。壁外調査だ。 「いいか? 長距離索敵陣形はネス班長に教わったな? 巨人を見つけてもどうにかしようと思うなよ。新兵がベテランの戦闘に加わろうなんざ思い上がりも甚だしいってもんだ」 「え、じゃあどうしたら……」 「つまり――お前は囮だ新兵!」 「囮!?」 ウォール・ローゼ、トロスト区の開門直前、私はすぐ前にいるゲルガーさんと話していた。命に関わる大事なことは直前に言わないで欲しい。 「お前みたいなぺーぺーのガキに巨人近づけさせたら瞬殺だよ瞬殺! だから巨人から逃げることを最優先にしやがれ!」 「で、でも訓練兵の時に援護班の補佐はしました。勝手な行動で良くなかったとは思いますが――」 「うるせえ! 命令に従え! そもそもなあ、普段の連携なくして援護なんざ普通はしねえんだよ!」 「う……」 確かにまだミケ班で連携といった訓練はしていない。この一ヶ月はひたすら、自分との闘いだった。 「わ、わかりました、囮、頑張ります!」 やがて時間になる。開門の鐘が鳴り響いた。 「これより壁外調査を開始する! ――前進せよ!」 エルヴィン団長の声に「応!」と調査兵全員で声を張り上げた。 門が上げられ、先頭から続々と壁の外を馬で駆ける。私も続いた。 「……!」 初めて壁の外に出た不思議な開放感に包まれる――ことはなかった。まだウォール・マリアが先にあるからだろうか。訓練兵の頃に市街地の援護に独断で加わった時は必死でそんな感慨もなかったし。 だが、仮初めでも平穏のある壁の中にはない感覚に身体が緊張した。 ここはもう、巨人の領域。 そう実感した瞬間だった。地鳴りが聞こえた。巨人だ。 一直線に駆けてくる巨体に全身が総毛立つ。こっちに来る――こっちに来る! 奇行種だ! 「チビはそのまま走れ! 回り込んで撒こうとか高度なことするんじゃねえぞ、とにかく走れ! ――ナナバ、援護しろ!」 ゲルガーさんの指示通り、私は悲鳴を押し殺しながらひたすら馬で駆けた。二体同時に通常種の巨人から追いかけられた時は生きた心地がしなかった。 その結果。 「どうしよう……逃げすぎた……」 現在、市街地を遠く離れた森の中。 逃げるのに必死になってしまって気づけばミケ班からはぐれてしまった。ちなみに巨人は周囲にいない。それだけが幸運だったけれどいつまでも続くとは思えない。 困った。どうしよう。 ----- 次回、流血など残虐描写注意。 back ×
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