自由倉庫 Freiheit ::新兵一年目編C 真夜中。 今日もミケ班による特別スパルタ立体機動訓練のおかげで夕食を食べ損ねた私はひとり自炊していた。これは調査兵になって半月、当たり前のことになりつつある。 「…………」 火にかけた小鍋の前で、自問する。 強くなるために、戦うために私は調査兵になった。訓練に文句を言うつもりはない。 でも、何だろう。この虚しさは。 班員の人たちとは一向に打ち解けられないし、他の新兵とは全く関わりが持てないし。 何だか身体よりも精神的に疲れてしまう。 「はあ……」 やがて鍋が煮えたので味見する。 「あれ?」 私は鍋を見下ろす。 「おいしくない……何でだろ……いつも通りに作ったのに……」 一度鍋から離れて調味料の並ぶ棚へ向かう。何を入れれば良い味になるかと吟味していると、 「あああー、お腹すいた……書き物してたら時間経つの早い……」 そばかすが特徴的な調査兵が黒髪を揺らしてふらふらとやってきた。 「え、何これおいしそう!」 そして私が止める間もなく鍋の中身をぱくりと一口食べてしまった。 「おいしーい!」 あれ? 何で? 私はそう思わなかったのに。 もしかして私の味覚がおかしくなった? 気をつけないと。入団早々倒れていられない。 ぼんやりそんなことを考えていると、その人が私に気づいた。 「あ、もしかしてあなたの夜食だった? ごめんなさい、全部食べちゃった」 「いえ、あの、構いません」 「ごちそうさま、ありがと。――さあ、続き書かなきゃ」 その人はメモ帳にペンを走らせながら食堂を出て行った。 そこで私は気づく。 せっかく、入団して初めて、訓練以外にまともに話せた人だったのに。 「名前、聞き損ねた……」 ----- 彼女の名前はイルゼ・ラングナー。 back ×
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