自由倉庫 Freiheit ::君とならダブルベッド・完結編(翼のサクリファイス原作沿い長編その後) ※夢主はデフォ名です。 前日譚『君とならダブルベッド』は番外編の【こちら】に 「いいのか」 「一緒に眠るのに安心出来ない人と結婚しませんよ」 仕事面や、非常にややこしいことになった私の身分や防犯面を考慮して、私たちは兵舎で暮らすことになった。結局、これまでと生活は変わらない――ことはなく、夫婦用の兵舎のため、ちゃんと台所がある上に、小さくても浴室があることが嬉しい。 そんなに広いわけでもないけれど、兵舎の寝起きするだけの個室で生活していた私にとっては結構な大きさだった。二人暮らしには充分。 さて、冒頭の会話に戻ろう。 家具は備え付きのものがあってほとんど事足りたけれど、問題はベッドだった。木が腐りかけていたので新調することにして、街へ買いに来たところ。 争点は――ダブルベッドかツインベッドか。 私は兵長の希望通り、ダブルベッドで構わないのに、 「どうしてそんなに何度も念を押すんですか?」 朝からもう数え切れないくらいで、思わずため息をついてしまう。 すると兵長はむっとしたように、 「お前、一人じゃねえと落ち着いて眠れねえだとか去年騒いでただろうが」 「……ありましたね、そんなことも」 懐かしさに頬が緩むと同時に、胸が締め付けられた。 もう、あの頃の調査兵団に戻ることは出来ないのだと。 深呼吸をして、私は気持ちを切り替える。 「――以前の私は色んなことに怯えていたんですけれど、今となっては思い出というか、そういうこともあったなあと思う割合の方が多いので、だから、大丈夫です」 我ながらうまく説明出来ていないと思いながら、ベッドの検分を再開する。値段の違いはサイズによるものだけだと思っていたら、木の質によってかなり差があった。 睡眠は大事だから、あまり安いものはどうかと迷ってしまう。とはいえ値が張るのも考えものだった。 結婚に伴って、レイス家のお金とゲデヒトニス家のお金をいくらか持たされたけれど、一切手をつけていない。つけられない。使い道は今後考えよう。 とりあえず今まで自分で貯めたお金を元に候補を絞っていると、ふと思い至ることがあった。 「――あ、兵長はやっぱり一人の方が落ち着けますか? それなら別々のベッドにしますけれど」 「おい、呼び方」 「……すみません、まだ慣れなくて」 仕事上では役職で、私生活では名前で。――そう決めたけれど、まだ使い分けが出来ない私だった。 ベッドとは違うことに悩み始めていたら、 「これにする」 兵長が指差していたのは、良質のダブルベッドだった。 「それ予算オーバーです。――って、あの……!」 私の言葉を無視して、さっさと店員さんを呼んで手続きを始めてしまった。 「俺が出す」 「だ、だめです! 食器とか生活用品にたくさんお金出してもらったので、せめてこれくらいは……!」 説得も虚しく、結局私が財布を開くことは出来なかった。 持って帰れる大きさではないので配送手続きを待つ間、つい恨みがましく口を開いてしまう。 「一方的に、してもらうばかりだと困ります。何のために結婚したんですか、私たち」 「少なくともお前に金を出させるためじゃねえな」 「あなたにお金を出させるために結婚したわけでもありませんからね」 すると、 「飯を作ってくれたら良い」 宥めるように、手を握られた。 「そんなの、いつもしていることじゃないですか」 「充分だ」 そう言われてしまうと、腕によりをかけるしかない。でも、完全に兵士として復帰したら、毎日食事を作ることは難しいかもしれない。どうしよう。その辺り、これから考えないと。 手続きが終わって、店を出る。いい天気に、思わず頬が緩む。朝に干した洗濯物はきっと綺麗に乾いているに違いない。 ふと、思ったことがあって、伝えることにした。 「今さらですが、約束してくださいね」 私がまっすぐに向き合うと、兵長は足を止めてくれた。 「何をだ」 「せっかくベッドを買ったんですから、ちゃんと私と一緒に眠ってください。これからは椅子で寝てはいけませんよ。もし眠れなくても、目を閉じて横になってるだけで身体は休まりますから。それだけで全然違うんですから」 じっとこちらを見つめるだけの視線に対して、私は続ける。 「その睡眠方法で今まで問題なく過ごしてきたことはわかっています。でも、私はそうしてほしいんです」 それだけ、どうしても、伝えておきたかった。 ここまで言ってもまだ椅子で寝ることが多ければ、また考えよう。 そう思っていたら、 「約束する。これからは毎日お前を抱いて寝る」 その声が思いがけないくらい熱が込められているように聞こえて、私は慌てて首を振る。 「いえ、あの、別に私とくっついて寝てもらう必要はなくて……」 「あ?」 かなり怖い表情を返されて、焦る。どうしてだろう。とりあえず慌てて手を振った。 「だ、だって、せっかく広いベッド買ったのに……それに、寝返りが打ちにくいじゃないですか」 どうしよう、何だか恥ずかしくなってきた。何の話をしているんだろう、私たち。 顔を押さえてうつむいていると、 「リーベ」 名前を呼ばれた。 「約束だ」 顔を上げると、とても真摯な表情だったから――つい深く考えるより先に頷いてしまった。 一緒にいて欲しい。 自由にどこへでも行って欲しい。 相反する思いは、どちらも今でさえ止められなかった。 だが、俺にこいつを繋ぎ止めることは出来ない。 だからせめて、夜を過ごす時間くらいは。 そう望むことくらい、許されてもいいだろう。 【上】(2018/02/02) 【下】(2018/02/22) ----- 諸事情で全撤去した原作沿い長編その後のうちの一話です。 夢主の変化とか時の流れを感じてもらえたら嬉しいのですがどうでしょうか! 完結編と銘打ちながらも、この【その後】みたいな感じでダブルベッドにごろごろいちゃいちゃする二人とか書きたかったりする。 back ×
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