首輪の紐がほどけてる 序
義理?の兄弟で赤黒
赤司くん(16才)と黒子くん(28才)です
ちなみにモブ黒のエロ描写が強いので気を付けてください

少しひんやりしていて、すらりとした手先が、ゆっくりと伸ばされて自分のちいさなてのひらをつかんだ。緩やかな孤を描く口元は優しげで、記憶にはない母親も、生きていればこうやって自分に微笑んでいてくれたのだろうかと、頭によぎった。
動揺でちらりと視線をよこしたあと、すぐに俯けばその青年は仕方なさそうに笑って、しゃがみこみ覗き込んできた。

眼前にひろがる、晴れた日のあおぞらのような色彩。

「こんにちは。赤司征十郎くん。僕はきみを迎えに来ました」
柔らかな微笑みは、さながら天使のようで、ぎゅっと胸のあたりをつかんで緊張からごくりと喉を鳴らした。

「きみのお兄さんになる、黒子テツヤです」



朝の目覚ましの音がやかましい。寝ぼけ眼で目覚まし音が聞こえてくるあたりを闇雲に手を動かして、やっとのことでそれを捉える。
ボタンを押せば音は止み、やけにしんとした空間があらわれる。そこに廊下からぱたぱたと小さな足音が聞こえてきて、聞きなれた女の声がする。

「征十郎様」

女の声にベッドの中でまだ眠ろうとあがいていた少年は起き上がり、のそのそと扉へと向かう。無駄に装飾があしらわれたドアノブをつかんで、扉を開けた。
この屋敷に来てからずっと世話をしてくれているメイドが衣服を持ったまま立っている。
「征十郎様……鍵はかけずにと、申し上げているではありませんか」
眉をひそめるメイドに、征十郎は不快そうに顔をしかめる。

「鍵をかけないと、眠れなくてね。……それより、兄さんは」
衣服を受け取りながらベッドまで戻って問いかけると、メイドは言いにくそうに口を開いた。
「今日はテツヤ様も一緒です。お待ちになっていますよ」
「………………」
しゅるりと首元にネクタイを巻いて、結ぶと、征十郎はメイドの言葉に溜息をついた。

「さっさと仕事に行ってくれればいいものを…………」

征十郎は兄のことが嫌いだった。学校で良い成績をとっても、スポーツで大会に出て優勝しても、眉ひとつ動かさずに「そうですか」の一言で終わらす兄が、どうしようもなく嫌いだった。小学校のとき、友人と遊んで帰って来ると、汚物を見るような瞳で見下ろしてくる兄が嫌いだった。…………自分が慕っても、もう一度も応えてくれなくなった兄が嫌いだった。

部屋にはいると、もう朝食は並べられていて、兄は先に食事をはじめていた。いつも通りきれいな所作で食べ進める兄は、ちらりとはいってきた征十郎に視線をやると「おはようございます。征十郎くん」とだけ言った。
震える唇を感じながら、征十郎も同じように返すと、兄の反対側の席へと腰を下ろした。運ばれてくる食事はおいしいはずなのに、味がついてないのではなかろうかと感じてしまう。
空気が重い、はやく抜け出したい。そう思いながら黙って食事をすすめていると、突然、兄が口を開いた。

「そういえば、インターハイに出場が決まったそうですね。遠征は来週からですか」
兄から話しかけられ、征十郎は一瞬間をおいてから返事をする。
「……はい。来週からです」
喉を通り抜ける水が、やけに染みる。

「そうですか。頑張りなさい」
カツン、と料理をきりわけていたフォークと皿がぶつかりあう音がして、征十郎は顔をあげて兄を見た。
兄は平生と変わらない表情でもうおおかた料理を食べ終わっている。そして最後の一切れを食べ終わると、こちらを見つめたまま微動だにしない征十郎に目をとめて、顔をしかめて口を開いた。

「……何か、用ですか」
冷たい眼差しに、征十郎は己があさましい期待を抱いてしまったことを悔いた。なぜ、たったあんな一言だけでわずかながらの期待をしてしまうのか。
嫌い……嫌いだ、あんたなんて。
征十郎は心の中だけでそう兄へと言って、先程の兄の言葉に無愛想に「いえ」とだけ言った。
兄は訝しげに征十郎を見つめていたが、やがてそれも無駄だと知ると席を立ってそば仕えの男になにかを指示しながら退室していった。



「ごめんね〜赤ちん。お邪魔しちゃって〜」
紫原の間延びした声に、征十郎はいまさら何を言う気も失せてただ溜息だけをついた。大きな紫原のうしろにはぞろぞろと揃っており、みな同様に制服をこれでもかと濡らしていた。

「まあいいさ。今日は兄も帰ってくるのは遅いし、かまわないよ」
そう言った征十郎の言葉に、黄瀬が驚いたように声をあげる。
「え! 赤司っちお兄さんいるンスか?」
「……ああ。年の離れた兄が、一人ね」
「え〜何歳くらいなんスか? やっぱり赤司っちに似てるんスか?」

悪気はない。悪気はないのだ。それでもずばずばと聞いてくる黄瀬に、征十郎は苦渋に満ちた顔で答えた。
「……二十八歳だよ。仲が悪くてね、あまり兄とは話さない。顔も、全然似てないね」
あまり話したくなさそうな言い方に、黄瀬も察して「そうッスか」と言ったあとは兄に関する質問はせずに当たり障りのない話題を振った。
しばらくすると、征十郎の立派な屋敷が見えてきて、征十郎の声紋認証とともに大きな門が開く。
おお、と声をあげたのは青峰だった。

「でっけーな。赤司の家。なんだよ、お前……良いところのお坊ちゃんか」
青峰の言葉に、征十郎は皮肉気な笑みを浮かべた。
「まあ…………そう見えるだろうな」

遠くを見ると、玄関あたりがあいて、ずぶ濡れてしまった征十郎たちを中に招き入れるためにメイドたちが慌てたようすで征十郎たちに駆け寄る。
そのなかでも征十郎のそば仕えのメイドがやたらと焦ったような顔をしているのを不審におもった征十郎が口を開いた。
「どうした? なにかあったのか」
「いえ。とくにあったわけではありません……ですが、テツヤ様がもうお帰りになっています」

メイドの言葉にぎょっとして、征十郎はおもわずちいさく叫んだ。

「今日は遅くにしか帰らないんじゃ……」
「もうお帰りでございます。征十郎様のご学友はあなたさまのお部屋に案内いたしますが……」
ざわついた玄関のようすに気づいたのか、屋敷の奥から兄の声が響いて来た。

「なんの騒ぎです。うるさいですよ」
ざあざあとまだ雨が降る中、凛とした声が玄関に響く。
すらりとした細い体躯に品の良いスーツを着こんで、こちらを見つめてくる兄の姿に、征十郎は慌てて紫原たちをかばうように前へ出た。

「すみません……みんな、濡れてしまっていたので………放っておけず」
言いにくそうに告げる征十郎のようすに、紫原たちは驚いたように征十郎を見つめている。

「……そうですか。遅くならないうちに、ご友人を帰宅させなさい。あと、そこをきれいにしておくように」
最後はメイドたちに言ったのだろう、メイドたちが揃って「かしこまりました、ご主人様」と一礼をする。
もしかしたら追いかえせ、不愉快だなどと言ってしまうのではないかと心配した征十郎だったがそれも杞憂だったらしく、兄は許してくれたらしい。
ほっとして溜息をつくと、兄の姿がもう見えなくなったころに黄瀬が驚いたようすで征十郎に話しかけた。

「あれが赤司っちのお兄さん? すっげー若くないッスか?」
「…そうかな……」
濡れてしまった制服をメイドに渡して征十郎はそういう。
黄瀬はメイドにさえ愛想を振りまき笑っている。

「そんな、悪い人に見えないけどなあ。なんで赤司っち、仲悪いンスか?」
黄瀬の無神経な質問に、征十郎は顔をしかめて「黄瀬、外に放り出すぞ」とおどした。
それだけは勘弁してくださいッス!と黄瀬は泣き顔で言って謝ってきた。
なぜ仲が悪いのかなんて、こっちが聞きたい。
引き取ってくれたばかりのころは、そんなではなかったのに。


外面の良い兄は、バスケ部の面々にひどい態度をとるようなことは決してなかった。
いや、元来、兄は優しかった。それはもう過去の話ではあるが。
とくに、兄に対しても愛想の良く見目も良い黄瀬には殊更良くしていたように思えた。それがなぜだか、気にくわなかった。兄に笑いかけられてへらへらと笑っている黄瀬にも、自分には厳しいくせに、どうして連れてきた友人には優しく笑いかける兄にだった。
ほかの面々も兄に好印象を持ったらしく、会話する空間の雰囲気は、柔らかいものだった。
やがてメイドたちに渡した制服が乾くと、友人たちはいそいそと帰路へと急いで行った。もちろん兄が気を利かしてそれぞれの家まで車で送るように手配をしていた。
ふたりきりになると、兄はいつものもとの兄に戻ったようで、やはり自分を見下ろす視線はひどく冷たいものだった。
黄瀬たちに向けられた、すこしでも優しい視線が、正直に羨ましかった。



兄といるのはひどく息苦しいもので、食事をはやめに食べ終わると、すぐに自室へと向かった。兄が自分に冷たいのはいつものことなのに今日はやたらとそのことに関して気分が悪かった。
苛立ちがとまらなくて、自室へと向かう足をとめて書斎へと向かった。書斎といっても、自分の読む書物などはすべて自室に置いているので、滅多なことではその部屋には向かわない。けれど今日はなぜだか何年も放置したままの書斎へ行こうと足を進める。
広い屋敷のなか、あまり行かない奥の方の部屋へと向かうと、書斎には鍵がかかっていなかった。とくに利用する人物が誰もいないから、使用人たちも開けたままにしているのだろう。

久しぶりに書斎にはいると、そこは以前とまったく変わらず古書が積み上げられ、本が溢れかえっている部屋だった。奥に行くと古めかしい椅子と机が置いてあり、昔は兄にここで絵本を読んでもらったものだと思った。
古びてしまったロッキングチェアは、兄が自分を膝の上に載せながら絵本の読みきかせをしてくれたもので、それを見ると急に遠い過去のことが懐かしく、胸が締め付けられるような想いがした。
ロッキングチェアの付近の棚には、昔読んでもらった絵本が並べてあり、若干埃かぶってしまっているそれを拾い上げて、征十郎は悲しげに目を細めた。
埃かぶった表紙を親指で拭うと、太陽のひかりにあてられずにずっと置き去りにされた絵本が色鮮やかさを取り戻したように思えた。
ロッキングチェアに座って、それをゆらりと動かす。古いせいかすこしぎしりと鳴る椅子を見下ろして、征十郎は手にある絵本を開いた。
( 征十郎くん、征十郎くん。
  今日は何の本にしますか。 )
( 眠たいですか。征十郎くん。
  ベッドにはいっておやすみしましょうね……。 )
征十郎は懐かしい声を思い出して、絵本を閉じた。埃がすこし散って、ボトムへと絡みつく。
我ながら、未練たらしい執着に思えた。
あの兄は……もうここにはいない。

ふと壁掛けの時計を見ると、時刻は征十郎が部屋にはいってから一時間以上も経過していた。
そんなに長居していたのか、と自分でも驚きつつ征十郎が自室へ戻ろうと扉へと向かっていると、廊下から密やかな声が聞こえてきて、驚きから足をとめた。

「…………………………?」
なんとなく聞き覚えのある声に違和感を覚えつつ、征十郎はおそるおそる扉を開けた。
そこには誰もいない。
ではいったいどこから?そう思い耳をすますと、すこし離れた部屋から漏れ聞こえる声がした。なんといっているかはわからない。けれどその一人は聞きなれた兄の声であることに気付き、こんな使われていない部屋ばかりのところになぜ兄が?と不審なおもいを抱きつつ征十郎はその部屋へと静かに近づいた。
近づくと、部屋の中から漏れ聞こえる兄の声が平生とはちがうことに気がついた。泣いているような、叫んでいるような声に、征十郎はおもわず自分の口元をてのひらで覆った。
薄明かりの漏れる隙間から、そっとなかを覗き込む。

「ひぃ…っ…あ、あひぃっ、んゥっ……!!」
「テツヤさん、テツヤさん……」

顔は見えなかった。大きな体格をした男の背中と、下肢の部分からベッドへぱたぱたと白い液体をこぼす兄の姿が見えた。
どきどきと加速する鼓動を感じながら、征十郎は驚きで目を見開いてその光景を穴があくほど見つめた。
凛とした、冷たくて厳しい兄の声が嬌声へと変わり、白く清潔そうな肌が見知らぬ男の体液によって穢されている。
自分の見ている光景が信じられなく、征十郎は叫んでしまいそうだった。
これは、兄なのか?あの、冷たくて厳しい……兄なのか?
震えそうになる腕をとめて、征十郎は再度部屋を覗き込んだ。
「あ、あ、ああああ…っ……。うぅっ、やめてぇ……」
ひいひいとはしたなく喘ぎ、尻を男に突きだしている兄の姿が目に入った。淡い水色の髪の毛が汗で濡れて、顔の横に張り付いているのが見える。
口ではやめてと言いながらも媚びるような兄の声と揺らされる腰つきに、征十郎は目が離せなかった。どうしてか、興奮している自分がいた。
あの、あの兄が、男に尻を突き出し男の好き勝手されるがまま身体を触られ、喘ぎ、それを許している。
征十郎は男に燃えるような感情とともに、自分の息があがりいつの間にか頬が火照ってしまっているのを感じた。

「テツヤさん、中に出してもいい?ねぇ、いいよね?」
男が興奮を隠し切れていない声で、いやらしい声で兄にそう囁いていた。大きく太い肉棒が兄の尻穴付近でぴとりと当てられ、そのまわりをなぞるように動かされる。
兄は泣いているような声で「あっ……、焦らさないでください…っ…」と言ったあと、「はやくぅ…僕のナカに…」とねだるような声で男に言った。
男が嬉しそうな声で兄の名前を呼んだあと、しばらく肉がぶつかりあう音を聞いた。
兄が嬌声を絶え間なくあげ、男も兄の名前を呼びながら何度も何度も果てていた。


部屋へと戻ると、すぐに浴室へと向かった。浴室の付近にはいつもなら洋服をもってこさせるのだが、今日は先に受け取りに行って、浴室の中でシャワーを出しっぱなしにしたまま自分の性器を擦った。
兄の淫らな姿と欲にまみれきった、はしたない喘ぎ声を思い出して征十郎は白濁をこぼした。どろりと熱い白濁をてのひらにからませて、数度果てた。
「兄さん、」とシャワーの音にかき消されながらつぶやいた声は征十郎自身にも聞こえてはいなかった。
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PIXIVより再録

このネタはですね…別ジャンルのテニプリで考えてたんですね。
というかとにかく書いてみたいなーとおもっていたので、赤黒にあてはめてみました。
意外としっくりきているとおもいます。


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