優しくないおんなのこ リョーマ♀ in 四天宝寺 最終的に、白リョ♀になる予定です 食べかけのカレーを流し込むようにかきこんで、白石は食堂の扉に手をかけ外に出ようとしている少女を追おうと席を勢いよく立ちあがった。ガタタっと椅子が床にこすれる音がして、その白石の慌てた様子を珍しくおもった謙也が驚いたように目を見張ってうどんをすするのをやめた。 「白石?どないしたんや。そんな急いで」 「急用や!悪いけどその皿、あとで一緒におばちゃんのとこに返してくれへんか?!」 カレーの空皿をさしてまくし立てる白石に、勢い押された謙也はぎこちないながらも頷く。 「い、いいけど…っ、なんでそんな急いで……?」 「後でや後で!後で話すから!」 テーブルの上に置いていた財布をポケットに突っ込んで、白石は謙也の言葉にそう答えてもう見えない姿の少女を追うべく食堂の外へと出た。 冷房のついている食堂から出たせいで、初夏にはいろうとする、外の外気は熱と湿気を含み鬱陶しい。半そでのシャツがそのうちに、ぴたりと腕に張り付きそうだ。 額からたらりと流れ落ちそうになる汗を手の甲でおざなりに拭いながら、白石は一年のいる棟に向かう。少女のクラスは知らないが、一年のいる棟におそらく戻るのだろうからクラス全部をのぞいてみればいずれ見つかる。 なるべくなら、この女子テニス部の面倒事は早々に終わらせたかった。頼まれたのは自分でもなんとも不運だなあと思う。それはもちろん、断りきれない性格のせいもあるのだが。頼んできた女子も板挟みのような状態になったのだろう、可哀想に、とも思う。 けれどいくら隣りの女子テニス部がフェンス越しにもわかる剣呑さを漂わせているのがこちらにさえ感じ取れるといっても、そのことに関して同情するのとこうやってじわじわと巻き込まれつつあるのではまったく違う。そう、自分は女子テニス部のもめごとに巻き込まれているのだ。本意ではない。 「あれぇ。白石どないしたん?」 「あっ。金ちゃん!」 ひょっこりと教室からあらわれたのは、金太郎だった。お弁当を食べていたのか頬に米粒をつけたままだ。 仕方ない子やな、と思いながら白石がその米粒をとってやると金太郎はありがとなー白石!と言いながらにこにことしている。 「それにしてもどうしたんや白石? 三年の教室は反対の棟やで」 「へ?あ、ああ……そうやねんけどな、金ちゃん。俺いまちょっと人探ししててな……」 きょろりと金太郎が出てきた教室をのぞくが、お目当ての少女はいなかった。まだ初々しい部分もある一年生たちが突如あらわれた三年生の姿にびくりとして驚いている。 その様子にあの少女との違いを思い浮かべながら、肩を竦めたくなる。 「越前リョーマって子なんやけど、金ちゃん知らん?」 白石が金太郎にそう問うと、金太郎が驚いたようにぽかんとした後、大きな声で叫んだ。 「えっ!!なんで白石がコシマエのこと知ってるんや?!」 「コ、コシマエ……?」 金太郎の口から発せられた、どう考えても読み間違いじゃなかろうかという呼び名に疑問を感じながら白石は繰り返した。 「そうかー! 白石もコシマエに目ぇつけたんやな〜。あいつ、ごっつぅテニス強いもんな! 白石も戦ってみたいんやろ?」 にこにこと次から次へと言葉を発する金太郎に、白石はその肩をつかんで顔を寄せた。 「金ちゃん、越前さんと知り合いなんやな?」 「おん?」金太郎は不思議そうに首をかしげる。 「悪いけどその越前さんの居場所、教えてくれへん?用があってなあ」 頼み込む白石に、金太郎はきょとんと眼を丸くしたあと、わずかに逡巡して、「いやや」とつぶやいた。 へ、と白石が素っ頓狂な声を上げる。 「いーやーや。白石、抜け駆けするつもりやろ」 拗ねたようにいう金太郎に、白石は首を横に振る。 「嘘やん。だって、わいやってまだコシマエとちゃんと試合したことないんやで!なのに白石は自分が年上やからって先にしようやなんて、ズルいで!ズルいで白石!」 がくがくと金太郎に身体を揺さぶられ、白石はそんなつもりはないと言いながら弁解する。 「あんなあ、越前さんにはちょぉーっと重要なお話があるだけなんやで。だから、ホンマ金ちゃんが心配してるように試合なんか、せーへんよ!」 「……ホンマぁ?」 疑うようにじとっと見つめてくる金太郎に、白石はうなずく。 ぱあっと金太郎の表情が明るくなって、満足そうに微笑む。 「あんなーコシマエはな〜」 「…人の名前、廊下で大声で連呼しないでくれない? 迷惑なんだけど」 冷やかな声が後ろから聞こえてきて、白石は振り返った。そこには探しに探していた少女が、苛立ちを隠さない表情で立っていた。 怒っているのだろう、金太郎と白石を睨みつけている。 「あっ。コシマエ〜。白石がコシマエに用があるんやってー」 「聞こえてたよ。違うクラスにいるのに聞こえるくらいにおおっきな声で話してくれたね。人の名前」 「あっ。だから来てくれたんやな?」 「…………………………」 目の前で繰り広げられる会話に白石はだらだらと柄にもなく冷や汗をかいてしまう。金太郎と少女の会話は、まったくもって会話になっていなかった。 「で、あんたは俺になにか用なンスか?」 少女の方がはるかに体格も華奢で身長も低いのに、なぜだか威圧感がある。あ、これは反感買うな。しょうがない。そう思いながら白石が頷くと、少女はふうんと妙に冷やかな声で言った。 「さっき食堂で言ってた、『態度の悪い女子テニス部一年と部長のトラブル』のはなしってやつ?」 少女は、首をかしげて口元にわずかな笑みを浮かべる。 その年齢にそぐわぬ大人っぽい表情に、おもわず白石はたじろいだ。 「悪いけど、あんたがなにを俺に言っても意味ないと思うよ。時間の無駄……どうせ先輩に頼まれたんだろうけど。俺、悪いことなんてひとつもしてないし」 「はっ!?な、」 「どうせ部長に謝って丸くおさめろとか、そういうことでしょ?部長が騒ぎたててるだけッスよ」 少女は長く瞳を覆うようにかかりかける前髪をかきあげながら溜息をつく。 そしてぽかんと少女を見つめる白石にすこしだけ憐れみの視線を向けて言い放った。 「もしかしてすぐに謝るとでも思った?部内の雰囲気を良くしたいからって自分が折れるほど、俺は優しくないよ」 - - - - - - - - - - PIXIVより再録 金ちゃんも出てきました。 |