名前も知らないおんなのこ
リョーマ♀ in 四天宝寺
最終的に、白リョ♀になる予定です

フェンスを隔てて隣りのコートでいつも同じ時間帯に部活をしてる女子テニス部は、今年の春からなにやら剣呑な雰囲気が漂っていた。たびたび起こる新入生とのトラブルかなんかだろうな、と思いつつもわざわざ介入したあげく女子に噛まれるのは嫌だとかんじたせいで、白石はそのようすを距離を保ったままなにがあるのかと知ろうとすることはなかった。部活内での先輩後輩、もしくは同級生同士のトラブルなんてつきものや、とおもう部分もあるし、なによりそろそろ地区大会がはじまることもあって今年は手のかかるスーパールーキー・金太郎のお世話に専念していたこともあって、白石は余計なことを見る暇はなかった。
今年が、四天宝寺のこのベストメンバーで試合することができるラストチャンスになりうるかもしれない、そういう考えもあったからであろう。
だからこそ女子テニス部の部員から白石にわざわざ頼み込んできたとき、白石はおもわず眉をしかめそうになったのだった。

「お願いやぁ白石くん。白石くんからもやめるよう言ったってえな。ウチらだけ言っても、全然聞いてくれへんの」
眉根をさげて頼み込んでくるのは、女子テニス部の部員だった。申し訳なさそうに、だが白石がイエスと返すまではずっと頼み続けそうな雰囲気に、白石は溜息をつきたくなる。トラブルがありそうな雰囲気は薄々感づいていたが、まさかその渦中の人の片方が女子テニス部部長とは思ってもみなかった。
「なんでそないなって顧問に言わへんの?顧問がお灸すえれば、一発ちゃうん?部長やってそないあほと違うやろ」
ただの生徒である自分より顧問にいったほうがよっぽどはやくおさまるんじゃないかと白石が言えば、女子生徒はしょぼんとして首を横に振った。
「顧問にはもう言ったけど、全然意味なかったんや……。むしろ顧問に言ったのは一年生のほうやっておもったみたいで余計にひどくなって…………」
「でもなんで俺なん……?」
部外者が口出ししたら余計に悪化するのではないだろうか。
「それは部長が白石くんの言うことやったらある程度聞くやろってほかの子もいうてたし、白石くん、ウチの部内ですっごい信頼あるから」
「でもなあ、俺にほんまそない信頼向けても意味あらへんで。もっとひどくしてしまうかもしれへんよ?」
「かまへんよ!もうこれ以上ひどくなりようがないと思うし……お願いっ!もう白石くんくらいしか頼れへんのっ」
土下座をするような勢いで頼まれてしまえば、白石はもう断ることはできなかった。頼み込む女子生徒のほうに仕方なさそうに苦笑して、「わかったわ。一応言うてみる。そっちのとこの部長に」と言った。
なんとか了承の返事がもらえたと、女子生徒は喜色を顔にあらわして「ほんまありがとう!おおきに!」と言って何度も頭をさげてきた。その必死さに、適当なこと言われへんわ……と白石は承諾してしまったことをすこし後悔したのだった。


「ふーん。じゃあ白石大変やなあ。女子に頼られるのってええなって思ってたけど考え改めるわ。貧乏くじ引きやすいからな」
ずるずると音を立てながらうどんをすする謙也に、白石は机の中心においてある唐辛子を謙也の食べているうどんの中に大量にふりかけながら口を開く。
「頼られへん謙也に言われたくないわ!」
「ちょっ待て白石!そんな入れんな!辛いっ!」
ひりひりとする唇をおさえながら謙也は白石の手にあったとうがらしの瓶を奪い取り、今度は白石の頼んだカレーにふりかける。
ぎゃあぎゃあとふたりで騒ぎながら食事をするようすを小春があきれたように見つめている。
「でもほんま大変やねえ。女子って結構派閥意識とかあるし?」
「小春ゥ〜!お前がそないなことになってもこの俺が守ってあげるからな!」
「一氏うるさいわっ!」
きらきらとした瞳で見つめながら腕に抱きついてこようとするユウジを払いながら小春は弁当をつつく。黄色いきれいに焼けた卵焼きを箸にさしたとき、隣りからユウジが口をあけて「小春の卵焼き〜」と言って待っている。
それを一瞥した小春がそっけない口調で「あげへんわっ」と言って自分の口の中に卵焼きを放り込む。
「そんな〜小春ゥ。俺にくれへんの〜?」
「あんたは自分の弁当食うときや!」
ぱくぱくと自分の弁当を胃の中におさめながら小春はつんとした口調でユウジにそう返す。ユウジは小春の手作り弁当が一口も食べれなかったことに落ち込み、「もういい。俺もういい。今日ははいらへん……」といっておかずが残ったままの弁当の蓋をとじてぐすぐすと泣いている。
「あーもー白石のせいでこのうどんもう食えへん……真っ赤や。あれ?ユウジどうしたん?もう弁当いらへんの?」
唇をおさえながら聞く謙也に、ユウジはうなずく。
「だって小春が……俺に小春の愛の手作り弁当くれへんかった……」
半泣きでいうユウジに、謙也はおもわず口元がひきつる。
「お前への愛は入ってへんとおもうで……残念やろうけど」
「なっ…謙也、お前、小春のことまさか……!」
「狙ってへん狙ってへん!それお前の勘違いや!」
「やっぱり小春の魅力がありすぎるのがいかへんのや……小春ゥ〜!!!」
隣りに座っている小春に抱きつこうとユウジが立ち上がり、飛びついたと同時に重みで小春とユウジは隣りのテーブルをつかっていた女子生徒にぶつかった。女子生徒は小春とユウジの下敷きになるようにつぶれている。
「ふたりとも!騒ぎすぎや!」
白石があわてて立ち上がってふたりを起こして下敷きになってしまっていた女子生徒を助け起こす。細く華奢な腕を引っ張り、大丈夫?怪我は?と聞くと女子生徒はじろりと白石を睨むように見上げた。

「……別に大丈夫だから。触らないでくれませんか」
長めの前髪から鋭くひかる瞳がのぞいて、おもわず白石はその女子生徒をぼうっと見つめてしまっていた。
女子生徒の冷たい口調にはっと我に返って、白石は苦笑しながらいつも通りの口調で謝る。
「ごめんなあ。騒いでしもうて。本当に大丈夫?怪我はない?」
「……ないってば。もう気にしないでください。こっちも気にしてないんで」
つかんでいた手を振り払われて、白石はその冷たい態度に呆気にとられてしまう。幼少期のころから男女問わず人受けの良い白石は、あまりこうやってそっけない態度をとられることが少なかったからだ。
女子生徒はもう振り向くことはなく、食べ終わった皿の載ったトレーを持ち上げて、さっさとその場を去って行った。ぶつかったふたりも、その光景に呆気を取られて謝り損ねていた。
「……なんや、すっごいクールな女の子やったな。一年生かな?あのリボンの色」
謙也の一言に、あ、と白石は思い出す。そういえば、リボンは一年生の証である黄色のラインがはいっていた。それと手首にはめていたリストバンド。
女子テニス部の部員から伝えられていたことを思い出して、白石はもしかして、と思う。

( あの子が、部長と確執があるっていう越前リョーマ? )

- - - - - - - - - -
PIXIVより再録
白リョとかって読むんですけど、自分ではなかなか書かないので挑戦でした!


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -