くちびるで嘘をつく
赤司と黒子と黒子♀で三角関係
黒子と黒子♀は双子設定

赤司と付き合い始めてから、あのキス以来一度も赤司とのそういうたぐいの触れ合いはなかった。まわりの人達はどうやら世間でいう普通にカップルしているカップルとおもっているようだけれど、実際は違った。
赤司は自分に以前とおなじように接する。付き合い始めたからといって、帰り道に手をつなぐこともない。甘い言葉もささやかない。
( 赤司君は、なぜ私と付き合っているのか。 )


「赤司君の優しさは、兄さんだけに向けられているんですね」
ふとそんなことをテツナが口から滑らせてしまったのは、あまりにも赤司が自分にたいして付き合う前と変わらなかったからであろう。冷たいわけでもなかったが、甘くもない、以前とおなじような関係。
付き合い始めのときにキスをしたのがまるで嘘のように思えてくる。

「あれ?テツナは俺に優しくしてほしかったの?」
わかっているくせに、赤司は嘘臭い笑みを浮かべてそんなことを言いながらテツナの髪の毛を優しいてつきで梳いた。
大事なものを扱うような赤司のてつきは、自分に向けてしているようで、それを別のだれかに向かってされている。

「ごまかさないでください。赤司君だって、本当はわかっているんですよね?」
じっと見つめるテツナをどう思ったのか、赤司は考えこむようなふりをして、口を開いた。
「わかっているよ。テツナが何を言いたいのかも」
「………………………」
「けど、付き合いたいと言ってきたのは、テツナのほうだよ?」
だから、どうなろうと君がなにか言えるものでもないんじゃないかな。
赤司はそう言って、口の端をあげて笑った。本当に、趣味が悪い。どうしてあの人は、赤司君みたいな性格の悪い人が好きなのだろう。

テツナは椅子から立ち上がると、気分を害したように溜息をついて赤司を見下ろした。
「たしかに、赤司君の言うとおりです。付き合おうと言ったのは私の方です」
「そうだろ?」
頬杖をつきながらこちらを見上げる赤司の顔に、無性に腹が立つ。

「私が言いたいのは、どうして赤司君があのとき了承してくれたのか、ということです。だって赤司君……別に私のことなんて好きじゃないでしょう」
テツナの言葉に、赤司は驚いたように目を見張ってみせ、けれどそんな言葉を待っていたかのようにそのくちびるからは流暢に言葉が流れ出す。

「そうだね。テツナのいう『好き』じゃないのは確かだね。でも、テツナのことは気にいっているよ」
ニィと笑い、赤司は椅子に深く座りこんだ。
「……テツナは、俺との関係をやめたい?」
うかがうような口調で聞いてくる赤司に、テツナは視線をそらさずに返す。
「やめたい、とも思っているし、やめたくない、とも思ってますよ。矛盾はしていますが」
「やめたいなら、今すぐにでも俺はテツナと別れるけど」
「……赤司君こそ、私と別れたいくせに」
唇を噛みしめて、テツナは恨みがましそうな視線を赤司に向けた。その瞳に映るのはまぎれもない嫉妬の色だった。

「別れたい、とはいまは思わないさ。俺はその時を待っているだけ」
赤司の赤い瞳が猫のように細められ、楽しそうな色を帯びる。
いま、赤司が思い浮かべている姿は、きっと――――

「さあ、テツナ。決定権は君にある。俺とこのまま付き合うか……別れるか。俺はどちらでもかまわない。強制しない。君はどちらを選ぶ?」

答えはわかっている、とでも言いたげな余裕たっぷりの表情に、テツナは顔をしかめた。

( 兄さん、あなたは本当に趣味が悪い。 )
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趣味が悪いのはわたしだ。

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