瞳は語らない
赤司と黒子と黒子♀で三角関係
黒子と黒子♀は双子設定

「そういえば、昨日から赤司君とお付き合いはじめたんです」
ゆっくりとしたスピードでサンドイッチを口に運びながら、黒子テツナはなんでもないような口調でそう昼下がりの屋上で言い放った。気温は高くなりはじめ、六月にはいったこともあり夏服に変わったといえど汗はすこし浮き始める。そんな中、冗談嫌いなテツナが言った言葉にはみなが驚いた。
とくに顕著な反応を示したのは桃井と黄瀬だった。

「な、ななななんでッスか?!テツナっちと赤司っちってそんなに仲良かったっすか??」
「なっなんで赤司くんっ!?」
驚きの声も隠さずに質問攻めしかねない勢いのふたりにテツナは目をぱちぱちと瞬かせて、隣りでもう昼飯食べ終わりグラビア雑誌を眺めていた青峰を一瞥して口を開く。
「ふたりとも驚きすぎですよ。見てください、この青峰君の冷静っぷり」
テツナが視線をやった先にはこちらの会話を聞いていないのかなんにも反応を示さない青峰が寝ころんでいた。
その後ろ姿に、桃井が非難めいた口調で声をかける。
「青峰君なんで驚かないのー?赤司君とテツナちゃんが付き合うんだよっ!」
桃井の声に青峰は雑誌から視線を外すと、あきれた様子で溜息をついた。

「あー…だって俺、昨日、赤司とテツナが付き合うか?とか言ってるとき居たし」
「えっ!?そうなのっ?なんではやく私に教えてくれなかったの?」
「別に俺から言うことでもねーし。どうせ今日中にわかるだろっておもったからな」
グラビア雑誌を閉じて、青峰は起き上がった。青峰がじっと視線をやっている先をみると、屋上のドアからちょうどまいう棒を咥えた紫原をひきつれた赤司と、本を片手になにか話しこんでいる緑間と黒子の姿があった。

「委員会で遅くなったんだ。四人はもう来てたんだね」
口元に薄い笑みを浮かべてやってくる赤司に、怖いもの知らずなのか黄瀬がうずうずしたようすで聞いてきた。

「さっきテツナっちから聞いたんスけど、赤司っちがテツナっちと付き合ってるってマジなんスか?」
わくわくとした様子で聞いてくる黄瀬に、赤司はきょとんと眼を丸くしたあと、ああ、といってうなずいた。
「昨日からな。テツナが言ったのか?」
「はい。気を悪くされたなら、ごめんなさい」
ちらりとテツナが赤司をみると、赤司は首を横に振って「いや、」と言った。
「どうせいずれわかることだし、いいさ」
ふっと微笑んでみせる赤司の笑みに、黄瀬と桃井には優しげな笑みに見えて、これが彼女をつくった赤司か、と感慨深く思っていた。
微笑む赤司の後方で動揺したような声をあげたのは緑間だった。

「赤司とテツナが付き合っているのか?今日のラッキーアイテムは彼女、とかではなく?」
「そんな発想すんの緑間っちだけッスよ〜」
あははと笑いながら言う黄瀬に、緑間が恥ずかしさからか噛みつくように言い返す。
ぎゃあぎゃあと騒ぎ始めたまわりを眺めながら、赤司は後ろを振り向いた。

「テツヤ」
赤司に声をかけられた黒子は、目を見張って赤司を見つめる。赤司はいつもと同じような感情のよくわからない笑みを口元に浮かべてこちらを見ている。

「テツヤは知ってた?僕とテツナが付き合いはじめたの」
赤司の言葉の真意が汲み取れず、黒子は表面的な意味のみに返事をする。
「いえ、いま知りました」
黒子の返事になにをおもったのか、赤司は一瞬間をおいて「そうか」と言ってそのままテツナの隣りへと腰を下ろした。
さりげなく赤司が座るスペースをあけたテツナの姿に、知らず黒子は唾を飲み込んだ。



「……兄さん、驚いてましたね。やっぱり、私と赤司君が付き合うっていうの…意外なんですね」
部活を終えて、黄瀬や桃井が筆頭にふたりに気を利かして「お二人さんは先に帰るといいよ!」と言いながらなかば追い出されるようなかたちで、外に放り出された赤司とテツナはその言葉に甘えておとなしくふたり肩を並べて帰っていた。
その帰り道、テツナが突然今日の昼間の出来事を口にしたのだった。
赤司は、テツナの横顔を一瞥して笑う。

「テツナがバスケ部のマネージャーであれば付き合うこともなかっただろうけどね」
「部内恋愛禁止……ですっけ。不都合ですね」
「不都合?そうでもないよ。もともと女子マネージャーだってそんなに多いわけではないし、桃井だってテツヤにアピールしてるけど、あれはあれで自覚してるから問題にはならないさ」
「……そういうことじゃ、」
テツナは赤司の言葉に顔をしかめて遮ろうとしたが、その言葉の先は赤司によって途切れてしまった。
口元に意外にも柔らかなしっとりとした唇が、テツナの開きかけた唇を塞いでいる。
すこしして、唇がゆっくりと離されて、テツナは赤司を恨みがましそうに見上げた。

「いきなり、なんですか」
「付き合っているならなんの問題もないだろ。……それとも、別のだれかにしてほしかった?」
見透かしたような瞳で、赤司は意地悪く笑う。
テツナはひやりと伝う背中の汗を感じつつ、赤司を見上げた。

「…すこし。すこし驚いただけです」

付き合いたいと言ったのはテツナが先だった。それは昨日のことで、まだ間もないのに、どうしてかひどく遠く感じる。あのとき、赤司は驚いたように目を見張って、けれどすぐに笑みを浮かべると「いいよ。付き合おうか、テツナと」と言ってくれた。
まさかそんなあっさりと承諾してくれるとおもわなくて、テツナは疑いのまなざしを赤司に向けたが、赤司はなにも言わなかった。
ただ、テツナのほっそりとした指に自分の指を絡めてひどく優しげな笑みを浮かべた。

「帰ろうか――――XXX」

その言葉の最後の名前を聞いて、テツナは悟り、そして瞼を伏せた。
求めるものは赤司と自分自身も一緒だったいうことに、悲しくて、やるせなくて、どちらもきっとその望みは叶わないということも気づいて、テツナは再度絡む指を絡め取って赤司を見上げたのだった。

( 見下ろす赤司君の瞳には、きっと私によく似た私と違うあの人が映っている。 )
- - - - - - - - - -
ひどいおはなしです。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -